■ヨハン・アルブレヒト・オイラーの不等式(その6)
(その5)では,ウェアリングの問題の対するヨハン・アルブレヒト・オイラーの不等式『kを正の整数として,n=2^k[(3/2)^k]−1とするとき,n=x1^k+・・・+xg^kと書かれるような最小の正の整数g(k)について,不等式
g(k)≧[(3/2)^k]+2^k−2
が成り立つ』を紹介しました.
k=2→n=7=2^2+1^2+1^2+1^2 →g(2)=4
k=3→n=23=2・2^3+7・1^3 →g(3)=9
k=4→n=79=4・2^4+15・1^4 →g(4)=19
k=5→n=223=6・2^5+31・1^5→g(5)=37
のように,7を表すにはちょうど4個の平方数が必要であり,23は9個の立方数,79は19個の4乗数,223は37個の5乗数が必要ですから
g(k)=[(3/2)^k]+2^k−2
は平方数,立方数,4乗数,5乗数に対して最良の結果を与えています.
n=2^k[(3/2)^k]−1はkに縛られた特別な値であって,任意の整数ではなく一般性が失われています.無論,任意の整数はすべてこの式で表せるわけでもありません.しかるに,ウェアリングの問題のかなりの範囲のところまで正しいことが確認されています.
ヨハン・アルブレヒト・オイラーの不等式は,局所情報から何がわかるかという局所情報から大域的な情報を引き出す数学の例になっています.この点がこの不等式の最大の特長なのです.
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【1】ヨハン・アルブレヒト・オイラーの不等式
(Q)kを正の整数として,n=2^k[(3/2)^k]−1とするとき,n=x1^k+・・・+xg^kと書かれるような最小の正の整数gを求めよ.
この不等式の証明は
[参]水上勉「チャレンジ!整数の問題199」日本評論社
のQ191(p272)に掲載されています.簡単でいてしかも面白い証明ですの是非お読みください.この証明を読めば,なにゆえをもってn=2^k[(3/2)^k]−1が出てきて,g(k)=[(3/2)^k]+2^k−2がウェアリングの問題のかなりの範囲のところまで正しいことがわかるはずです.
(A)2^k[(3/2)^k]−1<3^kであるから,nをk乗数の和として表すときに1^kと2^kしか使えないことがわかる.
7=2^2+1^2+1^2+1^2 (k=2)
23=2・2^3+7・1^3 (k=3)
のように,n=2^k+・・・+2^k+・・・とできるだけ2^kを並べ,あとは1^k+・・・+1^kとすればよい.
そのときの2^kの個数は[(3/2)^k]−1,2^kの個数はn−2^k{[(3/2)^k]−1}=2^k−1であるから
g=[(3/2)^k]−1+2^k−1=[(3/2)^k]+2^k−2
g(k)≧[(3/2)^k]+2^k−2
の不等式を証明したのはオイラーの息子,ヨハン・アルブレヒト・オイラー(1772年)で,この式では等号が成立すると予想されているのです.
一般に,Ak=[(3/2)^k],Bk=(3/2)^k−[(3/2)^k],Ck=[(4/3)^k]とおけば,すべての正の整数kについて
[1]Ak+2^kBk≦2^kのとき
g(k)=[(3/2)^k]+2^k−2
[2]Ak+2^kBk>2^kかつAkCk+Ak+Ck=2^kのとき
g(k)=[(3/2)^k]+[(4/3)^k]+2^k−2
[3]Ak+2^kBk>2^kかつAkCk+Ak+Ck>2^kのとき
g(k)=[(3/2)^k]+[(4/3)^k]+2^k−3
が成り立ちます.ただし,[2],[3]の条件を満たすkはまだひとつも見つかっておらず,k≦4716×10^5のときはすべて[1]の条件を満たすとのことです.
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【2】ウェアリングの問題のもうひとつの一般化
4^k(8n+7)の形の数は4個の2乗を必要とする(たとえば,7=2^2+1^2+1^2+1^2)のに対して,9個の3乗を必要とする数は,たった2つの場合だけが知られています.
23=2・2^3+7・1^3
239=2・4^3+4・3^3+3・1^3
そして,1939年,ディクソンは23,239以外の整数はすべて8個の3乗数の和で書けることを示しています.また,8個の立方数の和として表せない自然数は15,22,50,114,169,175,186,212,231,238,303,364,420,428,454の15個だけです.
23と239を除くすべての整数が8個以下の立方数の和として表せる,また,454より大きいすべての整数が7個以下の立方数の和として表せる・・・このことから,十分に大きなすべてのnに対して,G(k)個のk乗数の和として表すことができる最小の正の整数G(k)が定義されます.定義よりG(k)≦g(k)ですが,この問題はウェアリングの問題のもうひとつの一般化となっています.
現在まで,4≦G(3)≦7,G(4)=16,6≦G(5)≦17,9≦G(6)≦24,8≦G(8)≦33,13≦G(9)≦50,12≦G(10)≦59の結果が知られています.
また,1937年,フアは十分に大きなすべてのnに対して,H(k)個の素数のk乗数の和として表すことができる最小の正の整数H(k)が存在することを示しました.1987年,タノガサラムはH(5)≦23,H(6)≦33,H(7)≦47,H(8)≦63,H(9)≦83,H(10)≦103を示したのですが,ヴィノグラドフがH(1)≦3,フアがH(2)≦5,H(3)≦9を既に示しており,現在までH(4)≦14,H(5)≦21が川田,ウーリーによって,H(7)≦46が川田,クムチェフによって得られています.
[参]Tattersall「初等整数論9章」森北出版
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