■三角形に関する不等式(その2)

 さて,いよいよここからが本題です.三角不等式というと「三角形の2辺の和は他の1辺より長い」が思い起こされますが,与えられた三角形の外接円の半径Rおよび内接円の半径rとおくと,

  R≧2r

となることを主張する,もうひとつの三角不等式を証明してみることにしましょう.

(問題)R≧2r   等号は正三角形のときに限る.

(証明)

 外接円と内接円の中心間の距離をdとおくとき,R^2−2Rr=d^2が成り立ちます(オイラーの定理).この関係式を導き出せば,ただちにR≧2rがわかるのですが,この関係式を導き出すことは見かけよりもやっかいで,ヘロンの公式を使ったほうがほうが簡単です.

 ヘロンの公式とは,任意の三角形の三辺の長さをa,b,c,面積をΔとして,

Δ^2=(2a^2b^2+2b^2c^2+2c^2a^2−a^4−b^4−c^4)/16

  =(a+b+c)(−a+b+c)(a−b+c)(a+b−c)/16

 ここで,2s=a+b+cとおくと

Δ^2=s(s−a)(s−b)(s−c)

となり,おなじみの平面三角形のヘロンの公式が得られます.

 外接円の半径Rおよび内接円の半径rをa,b,c,Δで表すと,

  abc=4RΔ       (正弦定理)

  (a+b+c)r=2Δ   (寄木細工定理)

ここで,

  s1=a+b+c,

  s2=ab+bc+ca,

  s3=abc

とおくとき,R≧2rは

  s1s3≧16Δ^2

  s1^3−4s1s2+9s3≧0

と同値.

 実際にやってみると

  s1^3−4s1s2+9s3=1/2[(b−c)^2(b+c−a)+(c−a)^2(c+a−b)+(a−b)^2(a+b−c)]≧0

b+c−a>0,c+a−b>0,a+b−c>0ですから,等号はa=b=cのときに限ることがわかります.

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 とはいってもこれを計算で出すのは大変ですし,この方法で高次元への拡張がうまくいくとはとても思えません.そこで,簡単な補助定理

a)n次元球に内接および外接するすべての単体のなかで正則単体はそれぞれ最大および最小の体積をもっていること

b)一様な棒の重心は両端の間の距離を1:1に,三角形の重心は中線を2:1に,四面体の重心は頂点と向かいあう面の重心との距離を3:1に内分します.すなわち,四面体の重心は1つの面の重心から対頂点に引いた直線の1/4の点にあること,・・・

を使うことによって,以下の不等式が得られます.

 三角不等式:R≧2rは3次元空間へも拡張できて,4面体では

  R≧3r   (4面体不等式)

三角形の重心の性質は四面体に遺伝するのです.

 また,4次元以上でもこの規則性が失われることはありそうもなく,同様に類推されます.すなわち,n次元単体でも同様に

  R≧nr   (単体不等式)

が成り立ちます.一般に,体積が与えられた単体において,頂点からある任意の点までの距離の和は,その単体が正則でありかつその点が重心であるときに極小値に達します.

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