■太鼓の形を聴けるか? (その3)

 1960年代,カッツは「ドラムの形は聴き分けられるか?」

  M. Kac, Can one hear the shape of a drum?, Amer. Math. Monthly, 73(1966),1-23

という論文を発表しました. この物理問題は,ある図形に対してそのラプラシアンの固有値を考えるという数学的問題となる.

 

 ラプラシアンとは

  Δ=-(d^2/dx^2+d^2/dy^2)

という微分作用素であり,ラプラシアンの固有値とは,ある関数fについて,

  Δf=λf

となるようなλのことである.逆にいうと,ラプラシアンの固有値が図形を知るための手がかりとなるのである.

 

 関数fを固有関数と呼ぶが,fを基本領域上の関数に限定することにより,固有値の分布に面白い性質が現れる.たとえば,一辺の長さがそれぞれa,bの長方形を基本領域とするディリクレ問題では,

  固有値: π^2(m^2/a^2+n^2/b^2)

  固有関数:sin(mπx/a)sin(nπx/b)

で与えられる.

 

(証明)

 スケール・パラメータa,bを取り払って,単位正方形内で考えることにするが,この基本領域はトーラス面と同一視される.トーラス上の関数はx,yを整数だけ動かしても値が変わらないという性質をもつから,固有関数は

  f=exp{2πi(mx+ny)}   (m,nは整数)

という形になり,

  Δf=4π^2(m^2+n^2)f

したがって,固有値は

  λ=4π^2×(m^2+n^2)

という形をしており,固有値分布は平方数の和の分布と同じになる.すなわち,固有値がとびとびの値をとるという離散性が示されましたが,この辺の事情はボーアの原子模型の話に通じるものがあります.

 

ここで、2つの相異なるモードが同じ周波数になる場合があることに注意しよう。

(m,n)=(1,8),(8,1),(4,7),(7,4)ではどれも周波数は65π^2になる。

また,矩形領域(弦の場合を含む)では固有関数は三角関数で表されましたが,円板や球の場合は,ベッセル関数を用いれば具体的に解を求めることができます.

 また,スペクトルとは固有値と連続スペクトルの全体を指す.連続スペクトルとは,固有値と同じ式を満たすものでありながら,固有関数が必要条件(2乗可積分性)を満たさないため,固有値とは認められないものである.非コンパクト面(曲面の中に無限に伸びている部分がある場合)では,連続スペクトルが存在することが知られている.振動する金属板に現れる砂には節線の美しい模様が現れることになる

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