■準結晶(その2)
【5】5回対称性を示す結晶
平面上の敷き詰めに引き続いて,3次元空間の敷き詰め<結晶>についてみていきましょう.結晶学の常識では,原子が周期的に配列した結晶物質では2重,3重,4重,6重の対称性しか許されないというのが鉄則・大前提になっていました.なぜ5重,7重,8重などの対称が結晶に存在し得ないかは正五角形は平面を埋めつくすことができないことから容易に理解されるところです.3次元では5回対称軸をもつ正五角形の役割を正12面体や正20面体が果たしますが,正五角形が平面充填形でないのと同様に正12面体・正20面体は空間充填形ではありません.
ところが,1984年に5重の対称性を示す物質(アルミニウムとマンガンの人工合金)がアメリカのシェヒトマンによって発見され,結晶学の根底は揺るがされ,この大前提は覆されました.それはあたかも誰かが5角形の雪の結晶を発見したような事件であったのです.この物質はペンローズのタイル貼りと密接に関係していて,ペンローズが始めた5重の対称性をもつ敷きつめを3次元空間に一般化したものであり,ある規則性をもちながら周期配列をしないことから,準周期的結晶,あるいは簡単に準結晶と呼ばれます.
その当時,結晶とアモルファスの両方の物質の状態を共有しそのどちらでもない新しい状態があると思っている人はごく少なかったのですが,この準結晶は両方の性質をもっています.準結晶は物質の性質を変化させ,多くの場合,物質を硬化させます.2012年のノーベル賞に繋がったのですが、非周期模様は今日に至っても爆発的に研究がなされています.
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[補]同じ形の多角形のタイルで床を敷き詰める場合を考えると分かりますが,それは5角形や7角形またはそれ以上の辺数の多角形ではあり得ない−−−と思われていたのですが,実際に,5回対称性を示すものには黄鉄鉱やフラーレンC60などがあります.また,ホウ素の単体の中には変わり種がたくさんあり,正20面体上にホウ素原子が12個ずつ結合したものがあるなど,5回対称性が自然界に実在する例が以前から知られていたのですが,それは例外であって,それまで知られていた結晶格子はすべて正四面体,立方体,正八面体から導かれていたのです.
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