■もうひとつの分解合同定理(その13)
Tomkowicz, Wagon著、佐藤健治訳「バナッハ・タルスキーのパラドックス」共立出版が刊行された。 Banach-Tarski Paradox第二版では、内容は大幅に改訂されたようである.
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[1] 第1次世界大戦から第2次世界大戦までの時期,ポーランドのルヴフに住む数学者の一団が「スコティッシュ・カフェ」という喫茶店に集っていた.その主要メンバーはシュタインハウス,バナッハ,ウラムなどである.
彼等は議論した問題をノートに書き留めた.やがて,その分厚いノートは「スコティッシュ・ブック」と呼ばれるようになった.たとえば,シュタインハウスはハムサンドイッチ定理を3次元に拡張できないかと考えて,それをノートに書き込む.それを読んだバナッハはそれが可能であることを証明したという具合である.
また,シュタインはウスは3人によるケーキの公平な切り分け方についても考えた.2人なら一人が切り分けて,もう一人が好きなほうを選ぶ方法が使える.実は何人であっても使える方法があって,ケーキを少しずつ切り分けでいく.誰かがストップと叫んだら,その場所でナイフをいれ、その切れ端を叫んだ人がもらう.そして残った人で同じことを続けるのである.
[2]こうして「スコティッシュ・ブック」にはポーランドの有名な問題が集められた。その第2問がバナッハ・ウラムの問題(1935年)である。
どんなコンパクト距離空間もボレル集合上の有限加法的合同変換不変な確率測度を持つか?
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「スコティッシュ・ブック」には,次のような問題があるという.
[Q]0.a1a2a3.... , 0.b1b2b3..... を二つの超越数の十進表記とする.このとき、
0.a1b1a2b2a3b3....
は超越数か否か? (シュタインハウス、1946年 The New Scottish Book)
[A]未解決
これに限らず,Scottish Bookに掲載された問題には未解決なものが予想のほか多い.問題を翻訳するのすら,困難な気がする.
ノサレフスカはバナッハが「スコットランドの本」で提出した[Q47]に答えて,次のことを示した.
[A]行列(aij)のすべての順列は,各要素を同じ行に移すか,あるいは,同じ列に移す5つの順列で生成される.
[A]行列が有限なら3つで十分である.
なお,The New Scottish Bookは,The Scottish Bookの後継のノートであるが,スコティッシュ・カフェのあったルヴフは,もはやポーランド領ではなくなっているようだ.
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