■もうひとつの分解合同定理(その11)

Tomkowicz, Wagon著、佐藤健治訳「バナッハ・タルスキーのパラドックス」共立出版が刊行された。 Banach-Tarski Paradox第二版では、内容は大幅に改訂されたようである.

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[1]面白い書き出しから始まる。

デロスの島人「どうすれば疫病をなくせるか?」

デルフォイの神託「立方体の祭壇の体積を2倍にせよ」

バナッハとタルスキー「選択公理を使ってよいか?」

 正方形の対角線を1辺とする正方形の面積は最初の正方形の2倍であることは明白です。したがって、正方形の2倍の面積の正方形を求める作図問題は簡単に解くことができます。そこで、次なる問題は立方体の2倍の体積をもつ立方体を求めることです。別名デロスの神殿問題と呼ばれるこの問題も簡単に解けるに違いないと思ったのでしょうが、1辺の長さが2倍の立方体の体積はもとの立方体の2^3 倍の体積、立方体の対角線を1辺とする立方体は3^3/2 倍の体積になってしまい、簡単には求まりません。ギリシャの3大作図不能問題のひとつですから・・・

[2]選択公理とは「どんな集合もある濃度との全単射をもつ」というもので、例えば、平方数の集合は正の整数の集合より少数の元からなるにもかかわらず、両者の間には1:1対応が付く。したがって、|X|=2|X|→立方体の祭壇の体積を2倍にできる。

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[補] 与えられた条件を満足する図形を作図するのに用具を定規とコンパスに限るのは古代ギリシャ以来の伝統です。定規とコンパスだけで

a)与えられた角を三等分すること(角の3等分問題)

b)立方体の二倍の体積をもつ立方体の一辺を作図すること(立方体倍積問題)

c)円と等積な正方形を作図すること(円の正方形化問題・円積問題)

これらの3つの問題はギリシャの3大作図問題として有名なものですが、実は19世紀になってから作図不能であることが証明されています。

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