■2体問題と3体問題(その2)
【1】太陽系のなかのカオス
二体問題の運動方程式はニュートンによって解かれ、その解はよく知られたケプラーの法則になります。ケプラーの法則では、すべての惑星はどれも太陽を1つの焦点とする同心楕円上を運行し、地球は永久にその楕円軌道を保ちながら太陽の周りを回り続ける周期軌道をとります。このように、二体の系においては軌道が安定するのですが、その系にもう一つ惑星をつけ加えると地球はもはや時計仕掛けのように正確で不変な軌道を保つことができず、カオス的にゆらぎ、ゆがめられてしまいます。3体問題は可積分でないばかりかカオスをも生ずるのです。
この問題は天体がそれ以上になるとさらに難しくなります。実際の惑星の運動は、太陽と惑星との二体問題ではなく、他の惑星の重力の影響も絡み合った多体問題になります。太陽系は太陽と9つの惑星が月や小惑星、彗星を伴って運動している大家族・大惑星系であり、その相互作用はかなり複雑となってしまうのです。
1887年頃、最後の万能数学者と呼ばれたフランスの数学者ポアンカレは「すべての惑星は現在の軌道とほとんど同じ軌道上を今後も運動し続けるのだろうか。それとも、太陽系外に飛び去ってしまったり、太陽に衝突する惑星もあるのだろうか。」という太陽系の安定性について研究していました。ポアンカレによってスタートした力学系の研究から、多体問題の運動方程式を解くことは極めて難しいことが知られていて、周期的なものだけでなくで、不規則で予測できないもの−−−たとえば有界ではあるが周期的でない軌道や無限軌道−−−が現れることが証明されています。したがって、実際の惑星の運動はケプラーの法則が厳密には成立しないため、非常に複雑な運動になることがわかっていて、3つというごく少数の物体を記述する微分方程式を解くことさえ非常にむずかしく、その軌道計算は簡単には解けないのです。
それに対するポアンカレの考え方は微分方程式の定量的な厳密解を求めることをあきらめ、微分方程式の解の大域的性質を幾何学的に研究すること、すなわち、解があるかないか、周期的かどうか、構造安定かどうかだけの定性的性質を調べるという位相幾何学的なものでした。現在、式の形でうまく解けなかった3体問題の微分方程式を数値的に解き、それをアニメーションの形で見ることができるようになりましたが、それでもまだ完全な解答には到達しておらず、近似的な結論ですが、「太陽系は安定か」という問いに対しては、大体周期的になる配置と惑星がさまよう出すような配置とが紙一重の差で混ざり合っているという答えが与えられています。
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