■モツキンの反例(その6)
ヒルベルトはいなかる項数の2乗の和の多項式として表すことはできない2変数関数が存在することを証明したが,その証明は構成的ではなく,具体例を示したわけではなかった.具体例をはじめて示したのはモツキンである(1967年).
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【1】モツキンの反例
2変数関数
f(x,y)=1−3x^2y^2+x^2y^4+x^4y^2
は,いなかる項数の2乗の和の多項式として表すことはできない.
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【2】ヒルベルトの定理
(その8)では,算術平均A(a^n)と幾何平均G(a^n)についてのフルヴィッツ・ムーアヘッドの等式
n{A(a^n)−G(a^n)}
=1/2(n−1)!{Σ(a1^(n-1)−a2^(n-1))(a1−a2)+Σ(a1^(n-2)−a2^(n-2))(a1−a2)a3+Σ(a1^(n-3)−a2^(n-3))(a1−a2)a3a4+・・・}
を紹介した.右辺はa1,a2,・・・,anを置換して得られる値の総和である.
また,このことから算術平均と幾何平均の大小関係についての有名な不等式
A(a^n)≧G(a^n)
の別証明が得られる.
Σ(a1^(n-1)−a2^(n-1))(a1−a2)+Σ(a1^(n-2)−a2^(n-2))(a1−a2)a3+Σ(a1^(n-3)−a2^(n-3))(a1−a2)a3a4+・・・
=ΣP1(a1−a2)^2+ΣP2(a1−a2)^2+ΣP3(a1−a2)^2+・・・
=Σ(P1+P2+P3+・・・)(a1−a2)^2
=ΣP0(a1−a2)^2≧0
このように2次式の和の形ΣkP^2が出現するのだが,さらに,
a1=x1^2,a2=x2^2,・・・
とおくと,
(a1^(n-1)−a2^(n-1))(a1−a2)
=(x1^2(n-1)−x2^2(n-1))(x1^2−x2^2)
=(x1^2−x2^2)^2(x1^2(n-2)+x1^2(n-3)x2^2+・・・+x2^2(n-2))
となり,各項が(x1^2−x2^2)x1^(n-2)の平方の形の多項式となっていることがわかる.このことから,多項式P1,P2,・・・それ自体も平方の和となることが理解される.
そのことを具体的に書いてみると
(a^2+b^2)/2−ab=1/2(a−b)^2≧0
(a^6+b^6+c^6)/3−a^2b^2c^2=1/6(a^2+b^2+c^2){(a^2−b^2)^2+(b^2−c^2)^2+(c^2−a^2)^2}≧0
である.右辺が平方式の和に書き直せるので非負になることは明らかであろう.
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フルヴィッツ・ムーアヘッドの等式により,
a1^n+a2^n+・・・+an^n−na1a2・・・an
を各項が非負値の和として表すことができることがわかっているが,特に2n次のとき,
F=x1^2n+x2^2n+・・・+x2n^2n−2nx1x2・・・x2n
=x1^2n+・・・+xn^2n−nx1^2・・・xn^2
+xn+1^2n+・・・+x2n^2n−nxn+1^2・・・x2n^2
+n(x1・・・xn−xn+1・・・x2n)^2
より,
F=ΣPi^2≧0
を示すことができる.
この定理は,
a^4+b^4+c^4+d^4-4abcd
a^6+b^6+c^6+d^6+e^6+f^6-6abcdef
が多項式の平方の和となることを保証するものである.たとえば,
x^4+y^4+z^4+w^4−4xyzw
=(x^2−y^2)^2+(z^2−w^2)^2+2(xy−zw)^2
は3個の多項式の平方の和である.
また,
x^6+y^6+z^6+u^6+v^6+w^6−6xyzuvw
=1/2(x^2+y^2+z^2){(y^2−z^2)^2+(z^2−x^2)^2+(x^2−y^2)^2}+1/2(u^2+v^2+w^2){(v^2−w^2)^2+(w^2−u^2)^2+(u^2−v^2)^2}+3(xyz−uvw)^2
は19個の多項式の平方の和である.
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ヒルベルトは,多項式の不等式は必ず平方式の和として表されるという予想をたてた.そして,どのようなFがいくつかの多項式Piを用いて
F=ΣPi^2≧0
と表されるかという問題の証明を試みたのであるが,基本的には正しいものの当初予想されたような完全な完全な形での成立は不可能であることがわかった.
最終的には,Fの次数を2nとし,変数の数をmとした場合,
(1)m=2,nは任意
(2)mは任意,2n=2
(3)m=3,2n=4
は実数係数2次形式の和で表されるが,これ以外のものについては表されないものが存在するという結論である.
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