■ガウス整数とステルマー整数(その2)
【4】1+iのn±i分解
問題はこの型のすべての整数解を求めることですが,試行錯誤ではいささか難ありですから,(その2)に掲げた一般的理論(ステルマー分解)に倣って,1+i(傾き1/1の坂)をn±iで分解することを考えてみます.ただし,一意に表される必要はないので,nはステルマー数でなくてもよいことにします.
arctan(1/n),arctan(1/m)の2項を使って,πを表現する方法は
(1+i)(n−i)^r=(m±i)
となるn,m,rを求める問題に帰着されるのですが,
π/4=arctan1=arctan(1/n)±arctan(1/m)
が成り立つのは,ただ1通り
π/4=arctan(1/2)+arctan(1/3)
ですから,nについてはn=2,3がその候補となります.また,
2^2+1=5,3^2+1=10=2・5
より,n=5もその候補で,nの候補はn=2,3,5に限られることもわかります.
rについては,複素数の掛け算は偏角の足し算に対応しますから,偏角を幾何学的に考慮することによって,
|π/4−r・arctan(1/n)|<arctan(1/n)
π/4/arctan(1/n)−1<r<π/4/arctan(1/n)+1
の範囲に収まることがわかります.
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[1]n=2→r=1,2
(1+i)(2−i)=(3+i)
→π/4=arctan(1/2)+arctan(1/3)
(1+i)(2−i)^2=(7−i)
→π/4=2arctan(1/2)−arctan(1/7)
[2]n=3→r=2,3
(1+i)(3−i)^2=7(7−i)
→π/4=2arctan(1/3)+arctan(1/7)
(1+i)(3−i)^3=4(11−2i)→×
[3]n=3→r=3,4
(1+i)(5−i)^3=4(46−9i)→×
(1+i)(5−i)^4=4(239−i)
→π/4=4arctan(1/5)−arctan(1/239)
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これでarctanを2つ使ってπを表現する公式がすべて出揃いました.実際の数値計算では,項数が少なく分母が大きいものほど有効ですから,マーチンの級数はarctanを2つ使ってπを表現する公式の中で最良のものであることがお分かりいただけたかと思います.
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