■セルオートマトン(その9)

【2】ウルフラム

 70年代のライフゲームのブームが下火となった80年代前半に,ウルフラムは,2次元モデルが中心であったセルオートマトンに1次元モデルを導入しました.そして,物理現象を表す偏微分方程式をコンピュータで近似するかわりに,セルオートマトンを用いるスキームを開発したのです.

 1次元セルオートマトン法では,セルの並びを横一列だけとします.そして初期配置と状態変化の規則を設定し,その時間ステップごとの変化を縦に並べると,2次元にある模様が現れます.ウルフラムはこうして得られた1次元セルオートマトンモデルが作り出すパターンを系統的に研究することによって,クラス1(均一),クラス2(周期的),クラス3(カオス的),クラス4(複雑)の4つのクラスに分類し,さらにセルオートマトンと微分方程式系との対応を初めて明らかにしました.

 これが1984年に発表された有名な論文の要旨ですが,ウルフラムは微分方程式よりも彼のスキームのほうがデジタル・コンピュータに適していると主張します.このことによってセルオートマトン法は再び注目を浴び,様々な分野に適用されています.それについて多くを述べることはできませんが,加藤・光成・築山「セルオートマトン法」森北出版にその背景と応用が概説されています.以下,その中から,小生にとってショッキングだったウルフラムの天才ぶりについて,抜粋して紹介したいと思います.

 『ウルフラムは1975年,16歳でオックスフォード大学に入学後1年でそこを去り,カリフォルニア工科大学の研究員の地位を得る.20歳で博士号を取得し最年少でマッカーサー特別研究員の第1期生となった.しかし,後のMathematicaの原型となるSMPの著作権をめぐって大学と抗争となりそこを去る.そして,多数の論文,著作を残した量子色力学の研究を放棄して,セルオートマトン理論の研究に参入する.』

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 2002年,ウルフラムは「A New Kind of Science」(NKS)というタイトルの1200ページにもおよぶ書籍を出版,セルオートマトンに世界中の注目を集めた記念碑となりました.

 氷結・溶解・蒸発・結露・昇華など,相転移(phase transition)とは,あるシステムが(特定のパラメータが変化することで)ひとつの状態から別の状態に突然変化することをいいます.超伝導化や磁化の過程でも起こりますが,セルオートマトンはそのひとつのモデルとなります.

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