■散乱理論と逆問題
逆問題は工学や医学など様々な面に現れ,実用上大切な問題ですが,数学的にはまだ十分解明されていない問題であるといえます.
たとえば,弾丸が物体にあたって反射した際の散らばり方から物体の形を調べることは散乱論の基本的な問題ですが,この場合,物体の形を決めることは必ずしも可能ではありません.
そのような例として,「ペンローズの茸」と呼ばれる障害物をもつ楕円状物体が知られています.ペンローズの茸では弾丸が入り込めないポケットがあり,弾丸の軌跡はその情報をもち得ないのです.
それでは,物体に当てるものとして,弾丸の代わりに波を用いたらどうなるのでしょうか? すなわち,波を物体に当てて,散らばった波の遠方での挙動を調べることによって物体の形を調べるという問題です.
この場合,ラプラシアン△f=0でなく,ダランベルシアン
□u=0
が成り立ちますが,実はこの解の振る舞いを調べると物体の形を決定できることが知られています.ペンローズの茸のような物体に対しても,入射した波は回折によって障害物の裏側のすみずみまで入り込み,そこの情報をもって外に出てくるというわけです.
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