■クロネッカー・ワイル・ビリヤード(その2)
【2】正方形ビリヤード問題
クロネッカーの稠密定理は1次元の定理であるが,2次元に拡張することによって長方形ビリヤード問題に幾何学的証明を与えることができる.
正方形のビリヤード台(0≦xi≦1)を考え,点x=(x1,x2)の初期の直線運動を
x1=v1t+a1
x2=v2t+a2
とする.t:時間,初期位置a=(a1,a2),初期速度v=(v1,v2)
東西方向の壁にぶつかるときは南北方向の運動量の向きだけが逆になり,南北方向の壁にぶつかるときには東西方向の運動量の向きだけが逆になる.したがって,どんな軌道であろうと4通りの向きにしかならないのでこの運動は完全に予測可能である.
<x>=|x| (−1≦x≦1のとき)
<x+2>=<x> (すべての実数xについて)
で定義される関数を用いると,初期運動に対するビリヤードボールの運動は
x1=<v1t+a1>
x2=<v2t+a2> (−∞<t<∞)
で表される.
ある位置からある角度でビリヤードの球を発射させると,何回か壁にあたった後,最初と同じ位置・同じ角度で戻ってくる場合がある.n回壁にあった後,同じ状態に戻る場合をn周期軌道と呼ぶことにすると,与えられたnに対して発射角度を求めるというのはおなじみのビリヤード問題であろう.このとき,軌道が閉多角形であるための必要十分条件は,v1,v2が2つの有理数に比例していることである.
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【3】立方体ビリヤード問題
[1]ケーニッヒ・ズクス多角形(K・S多角形)
それではビリヤード球が立方体の内部で各面で1回ずつ反射して,常に同じ軌道をぐるぐると周り続けることは可能だろうか? これは可能であって,そのような有限閉多角形はケーニッヒ・ズクス多角形と呼ばれる.
スタインハウスが発見した例は各面を3×3に分割した升目の角をイス型に巡回するもの(1:2の比に対角線を分割する閉六角形)である.4つの側面の中心と底面,上面の対角線を1:3の比に分割する閉八角形も驚くほど簡単な例である.2つの軌道に共通する特徴は立方体に内接する正四面体の辺上(ケプラーの八角星)を通るということである.
前節同様
x1=<v1t+a1>
x2=<v2t+a2> (−∞<t<∞)
x3=<v3t+a3>
が閉かつ有限多角形であるための必要十分条件はv1,v2,v3が3つの有理数に比例していることである.
閉六角形の巡回軌道の場合,v1=1,v2=1,v3=−1とおいて
x1=<t+1/3>
x2=<−t+1/3> (−∞<t<∞)
x3=<−t+1>
と書くことができる.
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逆にv1,v2,v3が3つの有理数に比例しなければ,無限個の辺をもつ多角形となる.その際,
[2]軌道が立方体を稠密に埋めつくす(エルゴード的)
か,
[3]有限閉多面体(ケーニッヒ・ズクス多面体,K・S多面体)の臨界平面を稠密に埋めつくす
のどちらか一方になる.
この有限閉多面体はケーニッヒ・ズクス多面体と呼ばれ,臨界平面での運動を2パラメータ方程式
x1=v1t+u1s+a1
x2=v2t+u2s+a2
x3=v3t+u3s+a3
で定めると,任意の6面にぶつかって反射した後の平面は
x1=<v1t+u1s+a1>
x2=<v2t+u2s+a2> (−∞<t,s<∞)
x3=<v3t+u3s+a3>
と記述される.
これが閉かつ有限であるための必要十分条件は,v1,v2,v3が3つの有理数に比例しかつu1,u2,u3が3つの有理数に比例していることである.
最も簡単なK・S多面体は
x1=<t>
x2=<s>
x3=<1−t−s>
である.臨界平面はx1+x2+x3=1であるから,立方体に内接する正四面体になる.立方体に正四面体を内接させることができることは,最初ケプラーにより指摘されたことからケプラー四面体と呼ばれる.
なお,立方体に2個の正四面体を天地逆転させて重ねて内接させた相貫体にはケプラー八角星(星形八面体)という名前がつけられている.ケプラー八角星は外側に立方体,内側に正8面体をもっている.
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