■円の中の円(その3)

 1次分数変換(メビウス変換)

  w=(az+b)/(cz+d)

は円を円に変換する.(この変換は円は円に移り,直線も円へ移るという性質を併せもつ.)

 メビウス変換

  w=f(z)=(az+b)/(cz+d)

は複素数球面上で考えると1つの回転に対応していて,たとえば,数zを

  (z−1)/(z+1)

に置き換えるには,北極と南極が赤道のところにくるように球を90°回転させればよい(0を−1に,1を0に,∞を1に移す座標変換).この写像は等角写像になる.

 また,[0,i,−i]を[1,−1,0]に移す変換は

  w=−(z+i)/(3z−i)

となるが,少しだけ補足しておきたい.

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【1】接円定理と反転法

 接する円の族に関する定理では何百という美しい定理があるが,シュタイナー円鎖について述べておきたい.小円を大円の内部におき,この2つの円の中間に次々に接する円列を作る.たいていの場合,最後の円は重なってしまい,この円列は互いに接する円環をなさない.しかしときとして完全な円環をなす場合がある.これがシュタイナー円鎖である.

 最も簡単なものとしては,たとえば,半径が3と1の同心円に対しては6個の単位円よりなるシュタイナー円鎖が存在し,円の中心の軌跡は半径2の円となる(円の最密充填).シュタイナー円鎖をなす円の中心の軌跡は楕円となる.

 アルキメデスのアルベロス(靴屋のナイフ)円列はシュタイナーの円鎖の特別な場合になっていて,円の中心はすべて基線上に長径をもつ楕円の上にのっている.この円列の円の中心から基線までの距離は半径の2倍,4倍,8倍,・・・となる(パッポス).

 ソディー(アイソトープの発見でノーベル賞を受賞した英国の化学者)の6球連鎖はシュタイナー円鎖の3次元版であるが,シュタイナー円鎖の場合とは異なって,球連鎖は常に繋がり必ず6個の球からなる.そして6個の球の中心,球同士の接点はすべて同一平面上にあるのである.

 反転によって,接する2円は接する2円か,円とその接線か,平行な2直線のいずれかにに移る.また,平面上の交わらない2つの円を同心円に移す写像が存在する.

 シュタイナー鎖では同心円でなく,また交わりもせずに一方の円が他方の円の中に入っている状態で,この2つの円の間に連結する半径が異なる小円の鎖が内接している.これの3次元版がソディーのhexlet(6球連鎖)である.シュタイナーやソディーの定理はこれらの事実に基づいて証明されるのである.

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【2】シュタイナーの定理におけるメビウス変換

 シュタイナーの定理は最初の2円が同心円になるような反転を考えると容易に証明できる.

  1=(a+b)/(c+d)

  −1=(−a+b)/(−c+d)

  α=b/d

を解くと

  w=(z+α)/(αz+1)

は半径1の円板をそれ自身に移し,[−1,0,1]はそれぞれ[−1,α,1]に移されることがわかる.(円板の中心が円板の中心に移されるわけではない).

 メビウス変換

  w=(z+α)/(αz+1)

の逆変換は

  z=(−w+α)/(αw−1)

であるが,一般には

  w=(az+b)/(cz+d)

の逆変換は

  z=(dw−b)/(−cw+a)

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【3】シュタイナーの円

 シュタイナーは反転法によって,鎖の間の連結する小円の半径やはじめの2つの円の中心間距離などの条件を求めた.

 メビウス変換

  w=(z+a)/(az+1)

したがって,w=0に写されるのはz=−a.z→∞に対する極限は1/a.z→−1/aに対する極限は∞.すなわち,z=−aは0に写り,z=−1/aは∞に写る.ゆえに,w平面の原点を通る直線はz=−aとz=−1/aを通る円の像である(−1<a<0).

 円の中心は,x=−(a+1/a)/2上にあるから,

  (x+(a+1/a)/2)^2+(y−y0)^2={(a−1/a)/2}^2+y0^2

 また,その逆変換は

  z=(−w+a)/(aw−1)

であるから,z=0に写されるのはw=aである.w→∞に対する極限は−1/a.w→1/aに対する極限は∞.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 他方,原点を中心とする同心円|w|=kは

  |(z+a)/(az+1)|=k

で定義される円の像である.これはz=−aとz=−1/aの2点を極限点とするアポロニウスの円である.つまり,z=−aとz=−1/aの2点からの距離の比が一定な点の軌跡である.

  |(z+a)/(az+1)|=|(z+a)|/|(az+1)|=|(z+a)|/|a||(z+1/a)|=k

より,2点

  (−a,0),(−1/a,0)

からの距離の比が|a|k:1のアポロニウスの円となる.

  (x+a)^2+y^2:(x+1/a)^2+y^2=a^2k^2:1

  (x−a(1−k^2)/(1−a^2k^2))^2+y^2={k^2(1−a^2k^2)+a^2(1−k^2)^2}/(1−a^2k^2)^2

 こうして,w=0を通る直線は(y軸に平行な直線上に中心をもつ)z=−a,z=−1/aを通る円に,|w|=kはその円に直交する円となる.このような円の族が作る図形を2点−aと−1/aで決まるシュタイナーの円という.

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