■ほぼ1の数の無限積(その39)

 18世紀最大の数学者オイラーが1736年に発見した結果はエレガントなだけでなく意外なものでした.その無限級数とは

 1/1^2+1/2^2+1/3^2+1/4^2+・・・=π^2/6

です.この式の驚くべき点は自然数のみを含む級数の極限に円周率πが突然現れることです.実際,この足し算をいくら見つめても答えに円周率の現れそうな気配はまったくありません.πとつながりのありそうな理由などなさそうに思えます.

 1728年にベルヌーイはこの和が8/5に近いと述べ,その後,オイラーは何年もこの足し算にとりつかれ大変な努力の末にこの値を求めましたが,π^2/6であることをつきとめたとき,平方数の逆数和のかなたに円周率が浮かび上がる不思議にとても感動したようです.

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【1】オイラー積

 オイラーの無限級数和Σ1/n^sはsの関数とみるとき,ゼータ関数ζ(s)として知られており,ζ(2)=π^2/6と表されます.また,

 ζ(s)=1/1^s+1/2^s+1/3^s+1/4^s+・・・

=(1+1/2^s+1/4^s+1/8^s+・・・)(1+1/3^s+1/9^s+・・・)(1+1/5^s+・・・)・・・

=1/(1−2^-s)・1/(1−3^-s)・1/(1−5^-s)・1/(1−7^-s)・・・

=Π(1−p^-s)^-1   (但し,pはすべての素数を動く.)

=Πp^s/(p^s−1)

と書き換えることができます.

 1+x+x^2+x^3+・・・=1/(1−x)

にx=1/p^sを代入したものを,Π(1−p^-s)^-1に代入して積を展開すると,ζ(s)=Σ1/n^sとなることがおわかりいただけるでしょうか.

 この式の右辺はオイラー積と呼ばれ,ゼータ関数と素数の間をつなぐ式になっています.したがって,ゼータ関数はすべての素数にわたる無限積であり,このような関係から,自然数全体についての和の話が素数全体についての積の話になります.これにより,1/ζ(s)はs個の整数を勝手に選んだとき,同時に割り切ることのできる1でない数が存在しない確率であることがわかります.すなわち,2つの整数が互いに素である確率は1/ζ(2)=6/π^2 (61%)となります.数学は無限の科学といわれていますが,πの無限級数が無限にある素数と深く関係していたのです.

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【補】互いに素となる整数

 2つの無作為に選んだ整数が互いに素である確率は1/ζ(2)=6/π^2(61%)となることを説明もなしに述べましたが,ここで解説することにします.

 1つの数が素数piによって割り切れる確率は1/pi,両方の数が同じ素数で割り切れる確率は1/pi^2になります.2つの数がどちらもpi で割り切れない確率は1−1/pi^2ですから,互いに素である確率はΠ(1−1/pi^2).

ここで,

 Π1/(1−1/pi^2)=Π(1+1/pi^2+1/pi^4+・・・)

=Σ1/n^2=ζ(2)

 したがって,2つの整数が互いに素である確率は1/ζ(2)=6/π^2(0.608),同様にして3つの整数が互いに素である確率は1/ζ(3)=0.832,4つの整数が互いに素である確率は1/ζ(4)=90/π^4(0.9239)を得ることができます.

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【2】ウォリス積

 オイラー積は,s=2のとき,

 ζ(2)=Πp^2/(p^2−1)=Πp^2/(p−1)(p+1)

=2^2/(2^2−1)・3^2/(3^2−1)・5^2/(5^2−1)・・・

=4/3・9/8・25/24・・・

 一方,ウォリスの公式は

  π/2=(2・2/1・3)(4・4/3・5)(6・6/5・7)・・・(2n・2n/(2n−1)・(2n+1))・・・

と記すとわかりやすい.この公式の不思議なところも,オイラー積同様有理数の無限積→πになっている点である.

 それでは,

[Q]全素数にわたる積

  (2・2/1・3)(3・3/2・4)(5・5/4・6)・・・(p・p/(p−1)・(p+1))・・・

を求めよ.

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[A]当該の式

 (2・2/1・3)(3・3/2・4)(5・5/4・6)・・・(p・p/(p−1)・(p+1))・・・

  Πp^2/(p^2−1)=Π1/(1−1/p^2)

と書いたほうがわかりやすいかもしれない.これはオイラー積であって,

 ζ(2)=1/1^2 +1/2^2 +1/3^s +1/4^2 +・・・=π^2/6

に等しい.

 よって,

  π^2/6=(2・2/1・3)(3・3/2・4)(5・5/4・6)・・・(p・p/(p−1)・(p+1))・・・

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