■正多角形の作図法則(その75)

【1】ガウス

 定規とコンパスだけで正3角形,正4角形,正6角形,正8角形が作図できることは簡単にわかりますが,辺の数5,7,9の場合はどうでしょうか.正5角形は古代ギリシャにおいて作図可能であることが発見されました.となれば,次に正7角形・正9角形の作図は?と考えるのは自然な成り行きでしょう.

 ところが,かのアルキメデスでさえも正7角形・正9角形の作図に成功しなかったといわれています.また,内接正多角形の作図は画家であり建築家であるレオナルド・ダ・ヴィンチの関心を惹きました.しかし,彼でさえ近似的な内接正七角形の作図を正確なものと思っていたようです.

 辺数3,4,5,6,8,10,12,15,16の正多角形は作図できますが,辺数7,9,11,13,14の正多角形は作図できないことから,正17角形もそうであろうと推察されます.ところが,1796年,ガウスは19才のときに正17角形の作図を思いつき,のみならず,nが素数の正n角形について,n=22^m+1が素数の場合に限り定規とコンパスだけで作図可能であることを発見しています.

 正7角形も正9角形も作図できないのに,まさか正17角形が作図できるとはと思うのが普通なのでしょうが,このことを用いると,m=0のとき正3角形,m=1のとき正5角形,m=2のとき正17角形となり,作図可能であることがわかります.当然,ずっと面倒になるでしょうが,正257角形(m=3),正65537角形(m=4)も作図可能です.

 22^m+1の形の素数をフェルマー素数といいます.フェルマー素数はガウスによって1世紀にわたる眠りから覚まされ,数論と幾何学に新たな美しさを吹き込んだことになります.フェルマーはこの型の数がすべて素数だと勘違いしていて必ず素数を与える式として考え出されたのですが,m=5のときは素数ではなく,現在,m=0,1,2,3,4の5個以外にフェルマー素数はみつかっていません.6番目のフェルマー素数の探索がコンピュータを使ってなされていますが,はたして本当に存在するのでしょうか.

 アルキメデスは円柱とそれに内接する球の体積比が3:2であることを発見した記念に,自分の墓の上に円柱の形をした記念碑をおくように遺言したといわれています.アルキメデスと同じように,ガウスは正17角形を墓石に彫るよう遺言しています.このことはガウス自身がその発見をいかに重視したかを物語っています.数々の大発見をしたガウスですが,19才の青年がアルキメデスをもってしてもできなかった古代ギリシア以来2000年の謎を解いたのですから,まさに驚きとしかいいようがありません.この正17角形の作図は彼を本格的に数学の道に入らせるきっかけとなったといわれています.

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 1796年、ガウスは19才のときに正17角形の作図を思いつき,のみならず,nが素数の正n角形について,n=2^2^m+1が素数のとき(あるいは互いに異なるフェルマー素数の積のとき)に限り定規とコンパスだけで作図可能であることを発見しています.

 すなわち,正n角形の作図において,nは異なるフェルマー素数か2のベキ乗との積

  n=2^kΠFm

でなければなりません.したがって,

[1]n=2,3,4,5,6,8,10,12,15,16,17,20,24,30 → 作図可能

[2]n=7,9,11,13,14,18,19,21,22,23,25 → 作図不可能

となって,幾何学的に解ける正奇数角形は,2^5−1=31通り,最大

  3・5・17・257・65537=4294967295

角形まであります.

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【2】ガウスを越えて

 正多角形の作図は円周等分問題という幾何学問題ですが,x^n−1=0という代数方程式の解と密接な関係にあります.正5角形の作図は黄金比と関連していて,2次方程式:x^2−x−1=0を解く,すなわち(√5+1)/2を求めることによって可能となりました.ギリシャ人は黄金分割を用いた見事な方法で正五角形の作図に成功したのですが,この方法は二次方程式の幾何学的解法を利用した賢明な方法といえます.

 一方,正7角形,正9角形はそれぞれ3次方程式:x^3+x^2−2x−1=0,x^3−3x+1=0に帰着します.したがって,正7角形,正9角形の作図や倍積問題のように3次方程式に帰着する作図問題は+−×÷√の演算を組み合わせても解けません.

 ところが,リンク装置を使えば角を3等分できます.また,近年になって折り紙を使っても角の3等分が可能であることが示されました.また,折り紙を使えば倍積問題が解けます.折り紙は3次方程式・4次方程式を解く力をもっているというわけです.

 定規とコンパスでは正7,9,11,13,14,・・・角形を構成できませんが,折り紙では2^u3^v+1という形の素数になるとき構成することができますから,構成できない最小の正n角形はn=11であり,以下22,23,25,29,・・・と続き,より多くの正多角形を構成することができます.

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 コンパスと標識定規による作図の場合は

  n=2^a3^b+1

に限り,標識定規とコンパスで作図可能であることが示されています.したがって,

[1]n=7,9,13,19 → 作図可能

[2]n=11 → 作図不可能

 すなわち,コンパスと定規のみをを使うという制限下では,正三角形・正方形・正五角形・正六角形の作図には成功するものの,正七角形と正九角形では躓いてしまう.それに対して,折り紙では正十一角形は困難なものの,正七角形と正九角形の作図はあっさり成功するのである.

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【3】もしも

 折り紙の折り目による包絡線として円錐曲線を表すことができますから,折り紙は2次方程式を解く力ももっています.折り紙は3次方程式・4次方程式を解く力ももっています.4次を超える能力はありませんが・・・.

 もし折り紙が5次方程式(・6次方程式)を解く力ももっていたら,

  n=2^a3^b5^c+1

という形の素数になるとき構成することができると思われます.そうであれば,正十一角形の作図もあっさり成功,構成できない最小の正n角形はn=22となります.

 もし折り紙が7次方程式(・8次方程式)を解く力ももっていたら,

  n=2^a3^b5^c7^d+1

となって,正二十二角形の作図も成功?

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