■ラングレーの問題(その6)

 ラングレーの問題『四角形ABCDにおいて,∠ABD=20°=a,∠DBC=60°=b,∠BCA=50°=c,∠ACD=30°=dのとき,∠ADB=eの大きさを求めよ.』

 この問題はラングレーが自ら創刊した雑誌「Mathematical Gazett」に提出したのが最初です(1922年,ただし出題形式は多少異なる).4点ABCDは同一円周上にはないためe=30°は技巧的な補助線を発見しない限り求めることができないことから,初等幾何の難問として多くのファンに愛されて(?)います.この記事の読者であればおそらく誰でも一度は取り組み,誰もが一度は悩んだことがある問題と思われます.

なかなかの難問で、ある中学校の入試に出されたこともあって、こんな問題が解ける小学生がいることは驚きです。ヒントは補助線です。

 私は2通りの補助線の引き方を知っているのですが,正三角形や二等辺三角形,凧型などが唐突に出てくる証明に驚かされたことをいまでも鮮明に憶えています.種明かしをすれば,この問題は頂角が20°の二等辺三角形と関係していて,したがって,正18角形の対角線の交点と関係しています.正18角形を描いて対角線を引けば,この問題の図が現れるというわけです(頂角20°の二等辺三角形を4個の二等辺三角形に分割する方法は11世紀のアラブの学者によって発見されていて,半径1の円に内接する1辺の長さxは3次方程式x^3+1=3xの解として求められます).

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  [参]清宮俊雄「幾何学」科学新興深新社

にもすべて整数度の角をもつ整角四角形の難問がいくつか示されていることから,ラングレーの問題は孤立した問題ではないと考えられるのですが,実際,パラメータを変化させることによって連続的に図形を変形させて整角四角形の問題を作り出すことができます.

 1975年頃からラングレーの問題を一般的する研究が始められ,コンピュータの助けも借りて,すべての整角四角形の問題を求めることが可能になりました.

  [参]斉藤浩「ラングレーの問題にトドメをさす!」現代数学社

はその集大成になっています.

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【1】整角四角形と整角三角形

 3点A,B,Cの内部に点Dがある場合において,すべて整数度の角をもつ整角三角形の問題も一連の「4点角問題」です.

 たとえば,

[Q]三角形ABCおよびその内部の点Dにおいて,∠ABD=30°=a,∠DBC=42°=b,∠BCA=54°=c,∠ACD=18°=dのとき,∠BAD=eの大きさを求めよ.

は数学/算数オリンピックの中学生版である「広中杯全国中学校数学大会」で出題された問題だそうです.

 この場合,二等辺三角形の頂角は36°,底角は72°ですから,五角形AEBCFが正五角形となるように点E,Fをとれば,正五角形と正三角形を組み合わせた図形を用いて実にスマートな証明が可能となります.

 e=24°がその解答ですが,斉藤浩さんのアイディアの賜物が一冊の本

  [参]斉藤浩「ラングレーの問題にトドメをさす!」現代数学社

として誕生することになったのは,この整角三角形のパラメトリック変形がきっかけとなっているそうです.

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【2】パラメトリック変形の分類と4点角問題の全数検索

 「4点角問題」はパラメータを変化させることによって一般化した証明可能な系列の問題の個別なケースにすることができます.この問題は1パラメータの系列,2パラメータの系列,非パラメータ系列(0パラメータ)に大別され,さらに1パラメータの系列は17系統,2パラメータの系列は4系統に細分化されるそうです.

 パラメータ系列,非パラメータ系列から整角四角形と整角三角形の問題を求めると,

  整角四角形: 9820組(31402問題)

  整角三角形: 7192組(17659問題)

計17012組(49061問題)ですべてであることが確認されています.

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 ところで,チェバの定理とは『△ABCの辺またはその延長上にない点Oをとる.頂点A,B,Cと点Oを結ぶ直線が△ABCの辺またはその延長とそれぞれP,Q,Rで交わるとき

  AR/RB・BP/PC・CQ/QA=1

が成り立つ.逆に,

  AR/RB・BP/PC・CQ/QA=1

が成り立てば,AP,BQ,CRは1点で交わる.』というものです.

 チェバの定理を三角関数を使って表現すると,正弦定理のような形になるのですが,4点角問題において第5の角度eを求める際には,チェバの定理の三角関数表現を利用することができます.すなわち,チェバの定理を使えば三角関数を用いた数値計算の議論に帰着されるのですが,計算機でゴリゴリ数値計算したとしても求められるのはあくまで近似解であって,丸め誤差の問題が派生します.

 たとえば,e=17.00000012°はe=17°とみなしてよいのか,それともたまたま17°と非常に近い値をとっているだけなのか判断できないケースがあるそうです.にもかかわわず,

  [参]斉藤浩「ラングレーの問題にトドメをさす!」現代数学社

では4点角問題の全数検索を行っています.それを考えればすべての4点角問題を求めることがいかに難しいか,非常に感慨深いものがあります.

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【3】雑感

  [参]斉藤浩「ラングレーの問題にトドメをさす!」現代数学社

ではラングレーの問題の一般化がなされています.この本は私のモヤモヤした気分をスッキリさせ,私を大いに喜ばせてくれましたし,今後も私のお気に入りの話題となるであろうと思います.

 斉藤浩さんの必要かつ十分な研究成果と少々特殊で風変わりな本を出版して頂いた現代数学社に感謝したいと思います.興味を持たれた読者の皆様には是非とも購読(購入して読破)されることをお勧めします.

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