■分割数の合同式(その10)

【5】分割数の近似式

p(n)の正確な公式は,1937年,ラーデマッハーによって与えられましたが,定義が簡単そうにみえるにも関わらず,易しい式で表すことはできません.ラーデマッハーの結果を正確に証明するだけでも,長くてこみ入った理論が必要になります.しかし,実際に必要とされるのは分割数の漸近挙動です.

そこで,ここでは1918年,ハーディーとラマヌジャンによって与えられた漸近公式

p(n) 〜 1/4n√(3)exp(π√(2n/3))

を紹介します.このことから,p(n)は準指数関数と考えることができます.

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フィボナッチ数の漸化式

  f(n)=f(n-1)+f(n-2)

と比較すると

  p(n)=p(n-1)+p(n-2)-p(n-5)-p(n-7)+p(n-12)+p(n-15)-・・・

の-p(n-5)-p(n-7)+p(n-12)+p(n-15)-・・・は抑制効果を持っていることから

p(n)≦p(n-1)+p(n-2)

が成り立ちます.こうして,分割数の増大速度はファイボナッチ数で上から抑えられることが示されます.したがって,黄金比φ=(√5+1)/2とおくと上界は

  p(n)<φ^n

q(n)=1/4n√(3)exp(π√(2n/3))

とおいて最も近い整数を求めてみると,

q(1)=2,q(2)=3,q(3)=4,q(4)=6,q(5)=9,q(6)=13,  q(7)=18,q(8)=26,q(9)=35,q(10)=48,q(11)=65,q(12)=87,・・・

となってそれほどよい評価式には思えませんが,漸近近似式はnがどんどん大きくなるとき0に近づくような誤差項を含んだ公式であって,nが十分大きいとき,この公式を使えばp(n)の値を正確に計算できるようになります.

[1]n=100の場合,p(100)=190569292に対して,p(100)〜1.993×10^8

[2]n=243の場合,p(243)=133978259344888に対して,p(n)〜1.38×10^14

p(n)の粗いがそれなりによい評価式になっていることがわかります.

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[補]ハーディーとラマヌジャンは分割数の第一近似式を得たことになりますが,ラマヌジャンは完全な解答があると見抜いていなかったのでしょうか? このことに関して,数論学者セルバーグは,ハーディーとラマヌジャンが明示公式までたどりつけなかった原因は「二人の努力をむしろ妨げたのはハーディーが古典解析学の手法の凝りすぎていたからであって,ハーディーがラマヌジャンの直観を信じ切っていなかったため,20年後ラーデマッハーが導き出すことになる完全な明示公式を探求するだけの勇気がなかったのだという興味深いコメントを述べています.

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整数の分割

n=△+△+△

n=□+□+□+□

などは多角数定理と呼ばれるものですが,

n=1+1+1+・・・+1

は,ただひとつの1を超える部分をもたない整数nの分割です.

ところで,「分割数」とは与えられた整数にどれだけ多くの分割があるのかという整数の分割理論のことです.整数の分割では,3=2+1と3=1+2のように足し算の順序が違うものは同じと見なすことにします.たとえば,4を分割するには非増加数列で構成した5通りの方法,

4=3+1=2+2=2+1+1=1+1+1+1

がありますから,p(4)=5.同様に,

5=4+1=3+2=3+1+1=2+2+1=2+1+1+1=1+1+1+1+1

より,p(5)=7となります.

ここで,p(n)はオイラーの分割数と呼ばれます.

p(0)=1,p(1)=1,p(2)=2,p(3)=3,p(4)=5,p(5)=7,p(6)=11,  p(7)=15,p(8)=22,p(9)=30,p(10)=41,p(11)=56,p(12)=77,・・・

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