■ガウス曲率とリーマン曲率(その2)
多様体とは,各点の近傍が局所的なユークリッド空間になっていて,全体としては様々な性質をもつ図形を意味します.現在われわれが住んでいる宇宙も局所的に見るとユークリッド的に見えますが,もっと大きく見ると非ユークリッド的であってもよいわけです.
宇宙は曲がった空間であると考えられているのですが,宇宙全体を見渡すと,もしかしたら想像もつかないような3次元多様体になっているのかも知れません.ガウスがホーエル・ハーゲン,ブロッケン,インゼルスベルクの3つの山頂からなる巨大な三角形の測量に基づいて,この疑問に答えようとしていたことは有名な逸話になっています.地球を測った男たちの話から始めることにしましょう.
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【1】地球を測った男たち
[1]エラトステネス
エラトステネスは素数を組織的に拾い出すふるいを考えた数学者として知られていますが,地球の直径を求めた人でもあります.彼の方法はアレクサンドリアの南のシエネ(現在のアスワン)では夏至の日に太陽が真上にきて,井戸の底まで光が差し込むことが知られていて,ちょうどその時刻にアレクサンドリアでの入射角を観測すると7.2°(360°の1/50)ですから,アレクサンドリア・シエネ間の距離の50倍が地球の円周であるという非常に簡単な原理でした.
[2]天文学者カッシーニ
ニュートンは地球の回転の影響から地球の形は自らの遠心力で赤道でいくらか膨らんでいると主張しましたが,カッシーニはニュートンの重力理論には反対の立場をとり,また,ケプラーの楕円軌道論(2定点からの距離の和が一定である点の軌跡)にも反対して凸卵形を提案しました.カッシーニの卵形線(2定点からの距離の積が一定である点の軌跡)はこのとき提案された4次曲線です.
反ニュートン派のカッシーニはパリ付近の子午線1°の測量結果から,地球の自転もエーテルの動きによって引き起こされ,エーテルの外圧によって地球の形が極方向に伸びた紡錘形であると主張しました.デカルトの宇宙渦論が影響していたのです.現在からみるとニュートンの考えは自然に思えますし,当時でもその現象は木星と土星ではっきり観察できたようです.
[3]地球を測った男たち
地球は完全な球体ではありませんが,グレープフルーツのように両極がつぶれているのか,レモンのように赤道部分がつぶれているのか? グレープフルーツだと予想するイギリスとレモンだと予想するフランスの間で,論争が繰り広げられていました.
そして,1735年,ルイ15世は両説の真偽に決着をつけるため,地球の形状を測定する2つの探検隊をアイスランド(モーペルテュイ隊)とエクアドル(ブーゲー隊)に派遣しました.極と赤道での緯度1度の長さを測定して比較しようと試みたのです.アイスランド探検隊の測定はすんなりいきましたが,エクアドル探検隊は波乱と困難の連続になったようです.
大きな危険を冒しながら,地球は赤道のところで膨らんでいることが明らかになって,論争はニュートン説に軍配が上がりました.地球は巨大なグレープフルーツだったというわけです.これにより,エーテル(宇宙のゆりかご)は存在しないという新しい世界観を獲得することができたのです.
[4]伊能忠敬
伊能忠敬は50才で隠居し,第2の人生は自分の夢であった天文学・星学を生涯を通して学習します.井上ひさしは「4千万歩の男」のなかで,彼の人生を「一身にて二生を経る」と表現したそうです.
これらの測量に共通していることは,地球の測量に地球外の天体を利用していることです.もし地球外の天体を利用できないとしたら何がわかるのでしょうか?
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