■五次方程式が根の公式を使って解けないこと(その49)

【3】ガロアと群

 1824年,アーベルは一般の5次方程式が四則演算とベキ根によっては解けないことを証明しましたが,まだ核心部分(ガロア理論)には到達しておりませんでした.

 n次方程式の根の置換を考えると,それはn次対称群Snの対称性を有しているのですが,ガロア理論によると,n次方程式を解くということはSnのなかに不変部分群(正規部分群)を見つけることに対応しています.

 正規部分群をもたない群は単純群と呼ばれるわけですから,単純群であるかどうかが方程式が可解か可解でないかを決定することになります.実際にはA5が最小の非可換な単純群であり,S5>A5ですから一般の5次方程式が四則演算とベキ根によっては解けないことがわかるのです.

 あらすじはこのとおりですが,この点のガロアの洞察はガロアがアーベルを超えたところといえるわけです.少し詳細に見ていくことにしましょう.

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 3文字1,2,3の置換全体のなす群が3次対称群S3で,その位数は3!=6です.幾何学的にイメージするために1つの正三角形を考えてみましょう.三角形の中心まわりの角度120°の右回り回転をaとすると,aは3回やると元に戻るので

  a^3=1

また,頂点を通る中心線に関して裏返す作用をbとすると

  b^2=1

2種類の作用の相互関係は

  ab=ba^2

と書けます.

 S3は2元{a,b}によって生成される

  {1,a,a^2,b,ba,ba^2}

となるのですが,これは位数6の正2面体群,すなわち,位数3の巡回群{1,a,a^2}とその裏返し{b,ba,ba^2}とからなる(回転∪鏡映)群と同一です.

 6×6の群表(ケイリー表)を書けば,どの元も各行各列にちょうど1回ずつ登場し,魔方陣のようであることが理解されるでしょう.

     1    a    a^2   b    ba   ba^2

1    1    a    a^2   b    ba   ba^2

a    a    a^2   1    ba^2  b    b

a^2   a^2   1    a    ba   ba^2  b

b    b    ba   ba^2  1    a    a^2

ba   ba   ba^2  b    a^2   1    a

ba^2  ba^2  b    ba   a    a^2   1

 「正2面体群」とは,正n角形をそれ自身に移す回転全体のなす群であって,重心を通る垂直軸を中心とした回転と対称軸を中心としたπ回転から生成される位数2nの群と幾何学的に考えることができます.この正2面体という奇妙な名前は,2枚の正多角形を貼り合わせたものをつぶれた多面体と見なすことから由来しているのですが,2つの生成元a,bが

  a^2=b^n=(ab)^2=1

という関係を満たすことを確かめられたい.

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