■五次方程式が根の公式を使って解けないこと(その40)

【2】ニュートンの恒等式

 対称式の基本定理(ウェアリング:1762年)より,n変数のどんな対称式も基本対称式を用いて表すことができる.すなわち,

  f(α1,・・・,αn)=g(σ1,・・・,σn)

たとえば,2変数の場合,

  α1^2+α2^2=(α1+α2)^2−2α1α2

  α1^3+α2^3=(α1+α2)^3−3(α1+α2)α1α2

  α1^2α2+α1α2^2=(α1+α2)α1α2

など.もっと複雑で変数の数が増えたとしても,やはり対称式は基本対称式の多項式で表されるのである.

 2変数の場合,α1+α2やα1α2が基本対称式であるが,n変数の場合の基本対称式は

  σ1=α1+・・・+αn   (項数nC1)

  σ2=α1α2+・・・+αn-1αn   (項数nC2)

  σ3=α1α2α3+・・・+αn-2αn-1αn   (項数nC3)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  σn=α1α2α3・・・αn   (項数nCn)

となる.

 次に,n変数対称式(累乗和)

  pj=α1^j+α2^j+・・・+αn^j

を基本対称式を用いて表してみることにしよう.

  f(t)=Π(1+tαi)=1+σ1t+σ2t^2+・・・+σnt^n

とおくと,

  f'(t)/f(t)=d/dtlogf(t)=Σαi/(1+tαi)=ΣΣ(-1)^kαi^(k+1)t^k

=Σ(-1)^kp(k+1)t^k

 ゆえに,

  f’(t)=f(t)Σ(-1)^kp(k+1)t^k

となり,

  σ1+2σ2t+・・・+nσnt^(n-1)

=(1+σ1t+σ2t^2+・・・+σnt^n)(p1−p2t+p3t^2−・・・)

 両辺の係数を比較することによって,順次

  p1=σ1

  p2=σ1p1−2σ2

  p3=σ1p2−σ2p1+3σ3=σ1^3−3σ1σ2+3σ3

  p4=σ1p3−σ2p2+σ3p1−4σ4=σ1^4−4σ1^2σ2+2σ2^2+4σ1σ3−4σ4

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  p(k+1)=σ1pk−σ2p(k-1)+・・・+(-1)^(k-1)σkp1+(-1)^k(k+1)σ(k+1)

が得られる.

 このことから「α1,α2,・・・,αnの基本対称式は,累乗和:α1^j+α2^j+・・・+αn^jの有理数を係数とする整式で表される」という結果が導き出される(ニュートンの累乗和公式).不思議なことに,何次の累乗和であっても方程式の係数を使って表せるのである.

 r次の基本対称式(の総和)σrについては,不等式

  σr-1σr+1≦σr^2 (1<=rが成り立つことが知られている.

 また,

  Π(1+tαi)=1+σ1t+σ2t^2+・・・+σnt^n

 =1+nC1c1t+nC2c2t^2+・・・+σnt^n

と表すと,

  cr=σn/nCr

すなわち,r次の基本対称式の平均である.

 crは

  σr-1σr+1≦σr^2 (1<=rよりも強い,次のような不等式を満たす.

(1):cr-1cr+1≦cr^2 (1<=r(2):c1≧c2^(1/2)≧c3^(1/3)≧・・・≧cn^(1/n)

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