■五次方程式が根の公式を使って解けないこと(その39)

【1】判別式

 n次方程式:

  f(x)=a0x^n+a1x^(n-1)+・・・+an=a0Π(x−αi)=0

が重根をもつためには,判別式:

  D(f)=a0^(2n-2)Δ^2=0

が必要十分条件である.ここで,

  Δ=Π(αi−αj)  (1<=iはα1,・・・,αnの差積を表す.差積はn変数の最も簡単な交代式(基本交代式)であり,符号を除きファンデルモンドの行列式に等しい.

 差積Δは交代式,Δ^2は対称式であるから,基本対称式

  σ1=α1+・・・+αn

  σ2=α1α2+・・・+αn-1αn

  σ3=α1α2α3+・・・+αn-2αn-1αn

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  σn=α1α2α3・・・αn   (σkはnCk個の項をもつ)

の多項式として表されることが証明される.

 2次方程式f(x)=ax^2+bx+c=0の判別式は,

  D=a^2(α1−α2)^2=a^2{(α1+α2)^2−4α1α2}

この場合の根と係数の関係は

  α1+α2=−b/a,α1α2=c/a

が成り立つから,

  D=b^2−4ac

はf(x)=ax^2+bx+cの判別式であることはよく知られている.

 3次方程式の判別式は,ax^3+bx^2+cx+d=0の係数を代入して整理すると,

  D=−4ac^3−27a^2d^2+18abcd+b^2c^2−4b^3d

が得られるが,とても憶える気にならないし,また,憶えられる代物でもないであろう.fの次数が高い場合,その判別式を計算するのは容易ではない.ちなみに,5次方程式の判別式の項数は59にもなるという.

 一方,ジラールの標準形であれば,判別式は簡単な形で表される.

 f(x)=x^3+px+qの判別式は

  D=−(4p^3+27q^2)

 f(x)=x^n+px+qの判別式は

  D=(-1)^(n(n-1)/2){(-n+1)^(n-1)p^n+n^nq^(n-1)}

 また,fの次数が高い場合の判別式は,重根をもつことは判定できても,実係数2次方程式のように実根,虚根,重根の判別ができるわけではない.たとえば,実係数3次方程式では,

 (H1)異なる3つの実数解をもつ

 (H2)3つの実数解をもつが重根が入っている

 (H3)1つの実数解と1組の共約な虚数解をもつ

のいずれかであるが,D>0ならばH1,D=0ならばH2,D<0ならばH3である.また,3重解をもつための必要十分条件はD=0,b^2−3ac=0である.

 4次以上の実係数方程式の場合は

  D=0:重根をもつ

  D>0:偶数組の共約な虚数解をもつ(重根はない)

  D<0:奇数組の共約な虚数解をもつ(重根はない)

であり,D=0は重根をもつための必要十分条件であっても,実根,虚根の判別ができるわけではないのである.

 代数方程式が重根をもつための条件は判別式=0であるということであり,それが判別式の本来の意味である.実係数の2次,3次方程式では判別式の符号で実根の個数を判定することができるが,それは低次のときの特殊性に過ぎないのである.

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