■五次方程式が根の公式を使って解けないこと(その16)
1次方程式:ax+b=0の解はx=−b/aのように分数の形で求められますが,2次方程式の根の公式は紀元前二千年頃のバビロニアで求められました.方程式論四千年の歴史の幕開けです.その後,しばらくの間(約3千年)をおくことになるのですが,3次方程式,4次方程式は16世紀になって(1515年〜1540年ころ)それぞれフォンタナ(タルタリア),フェラーリによって肯定的に解かれ,根の公式が求められています.
そこで,次の問題は5次方程式:
ax^5+bx^4+cx^3+dx^2+ex+f=0
の代数的解法,すなわち四則演算+,−,×,÷と根号√,3√,4√,・・・によって解を求めることでした.いまからほとんど4世紀も昔の問題です.
5次方程式の根の公式に対してはオイラーやラグランジュなど多くの数学者が挑戦したのですが,だれ一人として成功しませんでした.それでも18世紀の終わりまで根の公式は求まるものと信じられてきたのですが,じつはこれには正当な理由があり,そもそも不可能な問題であったのです.
結局,19世紀になってから,5次以上の一般代数方程式は代数的に(四則と累乗根によって)解けないことが,二人の若い数学者,アーベルとガロアによって否定的に解かれ,根の公式は存在しないことが証明されています.
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【1】2次方程式の解法(古代バビロニア)
2次方程式:
ax^2+bx+c=0
の根の公式:
x=(−b±√D)/2a,D=b^2−4ac
は紀元前二千年頃のバビロニアで求められています.
Dは2次方程式の判別式ですが,
ax^2+bx+c=a{(x+b/2a)^2−D/4a^2}
ここで,x+b/2a=u,D/4a^2=v^2とおいて,完全平方式=定数という形の方程式を作り,
u^2−v^2=(u+v)(u−v)
を適用して上記の根の公式を得ていることは,ここの読者にとっては釈迦に説法と思われます.
以上のことを数式的表現ではなくて,図形的に解釈すると,
『x^2+b/ax=x(x+b/a)は長方形の面積と解釈される.これを変形して一辺がx+b/2aの正方形を作る.この正方形の面積は長方形の面積(=−c)と一辺がb/2aの正方形の面積との和でS=D/4a^2となる.』と解釈し直すことができます.
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1次方程式を解くために有理数(分数)を考え,2次方程式を解くために無理数(と複素数)を考え,3次方程式を解くために実数から複素数へと数の世界は拡大されました.ガウスが1799年に証明した代数学の基本定理によって,n次方程式はnがどんな値のときでも,複素数の範囲でなら必ず根の存在は保証されているわけです.
さて,2次方程式の根の公式(根を係数で表す式)は,与えられた方程式の係数と加減乗除および根号をとるという手続きのみを用いて書かれています.このような公式をn次方程式についても導き出したいのですが,これ以降は,n次方程式根の公式を係数についての加減乗除とn乗根(n≧2)をとるという手続きのみを用いて表すという問題,すなわち,根の公式の存在証明について考えることにします.
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