■五次方程式が根の公式を使って解けないこと(その8)
【7】不可能の証明(アーベル)
ノルウェーの数学者,アーベルは5次の一般代数方程式がベキ根によっては解けないことを初めて証明したのです.5次がダメなら5次以上もダメですから,結局,5次以上の方程式には,係数の間の四則と累乗根を使って表す根の公式はないことになります.
その際,アーベルは,「ニュートンの恒等式」を援用して方程式論を形成したことになるのですが,ここでは基本対称式とベキ和を結びつけているニュートンの恒等式について簡単に述べておきたいと思います.
一般のn次方程式:
f(x)=a0x^n+a1x^(n-1)+・・・+an=a0Π(x−αi)=0
の根と係数の関係は,
α1+・・・+αn=−a1/a0
α1α2+・・・+αn-1αn=a2/a0
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
α1α2α3・・・αn=(−1)^nan/a0
(ジラール)ですが,対称式の基本定理より,n変数のどんな対称式も基本対称式を用いて表すことができます.たとえば,2変数の場合,
α1^2+α2^2=(α1+α2)^2−2α1α2
α1^3+α2^3=(α1+α2)^3−3(α1+α2)α1α2
α1^2α2+α1α2^2=(α1+α2)α1α2
など.
そこで,n変数対称式:
pj=α1^j+α2^j+・・・+αn^j
を基本対称式:
σ1=α1+・・・+αn
σ2=α1α2+・・・+αn-1αn
σ3=α1α2α3+・・・+αn-2αn-1αn
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
σn=α1α2α3・・・αn
を用いて表してみることにしましょう.
f(t)=Π(1+tαi)=1+σ1t+σ2t^2+・・・+σnt^n
とおくと,
f'(t)/f(t)=d/dtlogf(t)=Σαi/(1+tαi)=ΣΣ(-1)^kαi^(k+1)t^k
=Σ(-1)^kp(k+1)t^k
ゆえに,
f'(t)=f(t)Σ(-1)^kp(k+1)t^k
となり,
σ1+2σ2t+・・・+nσnt^(n-1)
=(1+σ1t+σ2t^2+・・・+σnt^n)(p1−p2t+p3t^2−・・・)
両辺の係数を比較することによって,順次
p1=σ1
p2=σ1p1−2σ2
p3=σ1p2−σ2p1+3σ3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
p(k+1)=σ1pk−σ2p(k-1)+・・・+(-1)^(k-1)σkp1+(-1)^k(k+1)σ(k+1)
が得られます(ニュートンの恒等式).
ニュートンの恒等式から
『α1,α2,・・・,αnの基本対称式は,累乗和:α1^j+α2^j+・・・+αn^jの有理数を係数とする整式で表される』
という結果が導き出されます.不思議なことに,何次の累乗和であっても方程式の係数を使って表せるのです.
逆に,n次方程式:
f(x)=x^n+a1x^(n-1)+・・・+an=Π(x−αi)=0
が与えられたとき,累乗和
p1=α1+・・・+αn
p2=α1^2+α2^2+・・・+αn^2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
pn=α1^n+α2^n+・・・+αn^n
を根とする方程式の係数を導出することができるのですが,もし係数a1,・・・,anがすべて有理数(整数)なら,求める方程式の係数もまたみな有理数(整数)となることになります.
なお,ここでは形式的ベキ級数の等式としてニュートンの恒等式を導き出したのですが,この漸化式は別の方法でも求めることができます.「数学の小さな旅」(羽鳥裕久,近代科学社)などをご参照願います.
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