■五次方程式が根の公式を使って解けないこと(その3)

【2】3次方程式の解法(カルダノの方法)

 

 3次方程式:

  ax^3+bx^2+cx+d=0

の場合は,2次方程式のようにな完全立方式=定数の形にすることは難しそうですが,x^2の項の係数はx’=x+b/3aと変数変換(カルダノ変換)することによって簡単に消すことができます.

 

  ax^3+bx^2+cx+d=a{(x+b/3a)^3+p(x+b/3a)+q}

ここで,

  p=(3ac−b^2)/3a^2,

  q=(2b^3−9abc+27a^2)/27a^3,

  u=x+b/3a

とおけば,

  u^3+pu+q=0

となり,uについては2次の項がなく,3次,1次,定数項が残りますから,因数分解の公式

  a^3+b^3+c^3−3abc

 =(a+b+c)(a^2+b^2+c^2−ab−bc−ca)

 =(a+b+c)(a+bω+cω^2)(a+bω^2+cω)

が使えそうです.ここで,ωは1の3乗根:{(-1+√(-3)}/2であり,

  ω^3=1

また,

  x^3−1=(x−1)(x^2+x+1)

      =(x−1)(x−ω)(x−ω^2)

と因数分解できますから,ω^2+ω+1=0を満たしています.

 

  a^3+b^3+c^3−3abc=a^3−3bca+(b^3+c^3)

したがって,既知の数p,qに対して

  p=−3bc,

  q=b^3+c^3

を満たすb,cが求められれば,

  u=−(b+c),−(bω+cω^2),−(bω^2+cω)

すなわち,解

  x=−b/3a−(b+c)

  x=−b/3a−(bω+cω^2)

  x=−b/3a−(bω^2+cω)

が得られたことになります.

  b^3+c^3=q,

  b^3c^3=−p^3/27

ですから,b^3,c^3は2次方程式:

  v^2−qv−p^3/27=0

の解として定めることができます.

 

 このように,カルダノの方法として知られている3次方程式の根の公式では未知数を変換して2次の項をなくした方程式に変換し,最終的に2次方程式に帰着させます.本質的には,2次方程式の解法で使った正方形の分割を,そっくりそのまま立方体の分割に応用して3次方程式を解くという幾何学的アイデアに基づいています.すなわち,平方完成の原理を立体図形にまで高めたのがカルダノの方法なのです.

 

 実は,真の発見者はカルダノではなく,フォンタナ(通称タルタリア:タルタリアというのはどもる人という意味で彼のニックネームだった)の発見した解法であるというエピソードはいろいろな数学史の書物に取り上げられているのでご存じの方も多いと思われます.

 

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 ここではx^2の項の係数を0にする変数変換(カルダノ変換)によって,

  u^3+pu+q=0

の形にして,このp,qを用いた形で3次方程式の根の公式を与えましたが,2次方程式の場合と同様に「3次方程式の判別式」を使っても書くことができることを示しておきます.

 

 3次方程式をx^3+bx^2+cx+d=0とおいても,一般性は失われません(もし,x^3の係数がa≠1ならば,aで両辺を割ればこの形になる).この方程式の判別式は,

  D=−4c^3−27d^2+18bcd+b^2c^2−4b^3d→【補】

 

 また,

  B=−2b^3+9bc−27c,

  u^3={B+3√(−3D)}/2,

  v^3={B−3√(−3D)}/2

とおくと,x^3+bx^2+cx+d=0の3根は,判別式Dを使って

  x1=(−b+u+v)/3,

  x2=(−b+ω^2u+ωv)/3,

  x3=(−b+ωu+ω^2v)/3

で与えられます.

 

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【補】判別式

 

 n次方程式:

 f(x)=a0x^n+a1x^(n-1)+・・・+an=a0Π(x−αi)=0

が重根をもつためには,判別式:

  D(f)=a0^(2n-2)Δ^2=0

が必要十分条件である.ここで,

  Δ=Π(αi−αj)  (1<=iはα1,・・・,αnの差積を表す.

 

 差積Δは対称式ではないが,Δ^2は対称式であるから,基本対称式

  σ1=α1+・・・+αn

  σ2=α1α2+・・・+αn-1αn

  σ3=α1α2α3+・・・+αn-2αn-1αn

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  σn=α1α2α3・・・αn   (σkはnCk個の項をもつ)

の多項式として表されることが証明されている(対称式の基本定理:ウェアリング:1762年).すなわち,

  f(α1,・・・,αn)=g(σ1,・・・,σn)

 

 2次方程式f(x)=ax^2+bx+c=0の判別式は,

  D=a^2(α1−α2)^2=a^2{(α1+α2)^2−4α1α2}

この場合の根と係数の関係は

  α1+α2=−b/a,α1α2=c/a

が成り立つから,

  D=b^2−4ac

はf(x)=ax^2+bx+cの判別式であることはよく知られている.

 

 3次方程式の判別式は,ax^3+bx^2+cx+d=0の係数を代入して整理すると,

  D=−4ac^3−27a^2d^2+18abcd+b^2c^2−4b^3d

が得られるが,とても憶える気にならないし,また,憶えられる代物でもないであろう.fの次数が高い場合,その判別式を計算するのは容易ではない.ちなみに,5次方程式の判別式の項数は59にもなるという.

 

 一方,ジラールの標準形であれば,判別式は簡単な形で表される.

 f(x)=x^3+px+qの判別式は

  D=−(4p^3+27q^2)

 f(x)=x^n+px+qの判別式は

  D=(-1)^(n(n-1)/2){(-n+1)^(n-1)p^n+n^nq^(n-1)}

 

 また,fの次数が高い場合の判別式は,重根をもつことは判定できても,実係数2次方程式のように実根,虚根,重根の判別ができるわけではない.たとえば,実係数3次方程式では,

 (H1)異なる3つの実数解をもつ

 (H2)3つの実数解をもつが重根が入っている

 (H3)1つの実数解と1組の共約な虚数解をもつ

のいずれかであるが,D>0ならばH1,D=0ならばH2,D<0ならばH3である.また,3重解をもつための必要十分条件はD=0,b^2−3ac=0である.

 

 4次以上の実係数方程式の場合は

  D=0:重根をもつ

  D>0:偶数組の共約な虚数解をもつ(重根はない)

  D<0:奇数組の共約な虚数解をもつ(重根はない)

であり,D=0は重根をもつための必要十分条件であっても,実根,虚根の判別ができるわけではないのである.

 

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