■ヒーウッドの公式と2次方程式
今回のコラムのテーマは,種数gの閉曲面上の地図の彩色数に関するヒーウッドの公式(必要条件)の導出です.
以下,
H(g)=[{7+√(1+48g)}/2]
と同値な
H(χ)=[{7+√(49−24χ)}/2]
について,一松信先生よりご教示された証明を紹介いたします.
これは2次方程式の解となっていることが見てとれますが,どのようにして導出されたものなのでしょうか?
===================================
【1】目標
面上の多角形分割で,面数F,頂点数V,辺数Eとするとき,オイラー標数
χ=F+V−E・・・・・・・(1)
の閉曲面(向きづけられるか否かは不問)上の地図は,辺で境される国を別の色で塗るという条件下において,ヒーウッドの数
H(χ)=[{7+√(49−24χ)}/2] ([・]は切り捨て)
色あれば塗り分けられる(十分条件).
[注1]この公式は本来χ<0の場合にのみ有効である.ただし結果的にχ=1(射影平面)とχ=0で向きづけられる曲面(輪環面)では必要十分な正しい値(それぞれ6と7)を与える.χ=2(球面)のときには4を与えるが,これは「偶然の一致」であって四色問題の解ではない(∵上の公式を導くときχ<0という条件を本質的に使っている).
[注2]これは十分条件であって,必要条件(どうしてもそれだけの色がいる)ではない.結果的にはχ=0で向きづけられない曲面(クラインの瓶)以外の曲面ではすべて正しく必要十分な色数を与えている.クラインの瓶は唯一の例外で公式の値は7だが,実は6色で必要十分である.必要性は部分的(χの特別な値の例)には19世紀末から知られていたが,最終的にはヤングスとリンゲルとが共同研究して1968年に完全に証明された.
===================================
【2】証明
[1]第1段階
まず,地図を次のような標準地図に限定しても一般性を失わない.すべての頂点にはちょうど3個国が会している(4個以上が1点に会することはない).−−−それには4個以上が1点に会していたら,その点の近くに新しい1国を作って地図を修正すればよい(必要なら後にその国をつぶしてもとに戻す).
したがって,面(国)の数をF,頂点数をV,辺数をEとするとき
3V=2E・・・・・・・(2)
としてよい.
[注]χ=F+V−E・・・・・・・(1)
オイラー標数の定義.この基本量の値は曲面を定めれば一定であることは曲面(2次元多様体)のトポロジーの基本定理で,これは既知とする.向きづけられる場合はχ=2−2g(gはgenus(示性数,種数))であり,彩色数などと関連するのはある意味では自然な話である.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[2]第2段階
N色で十分であることは,F>Nのとき必ずN−1辺以下の国があることを示せばよい.(F≦NならN色で塗り分けられるのが自明である.)N−1辺以下の国があれば,一時,その国を隣接する国の1つと合併させる.そうすると辺の数が1つ減るから,Fに関する数学的帰納法によってF−1国以下の地図でよいと仮定して(N国以下なら自明)とりあえず塗り分ける.その後,もとの国を独立させたとき周りにN−1国以下しかないから,N−1色で十分なので,残った色をその国に与えればF国のときも正しい・・・という形で数学的帰納法による証明ができる
[注]互いに接するN国があるか否かは必要性の証明には不可欠だが,十分性の証明には不必要である.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[3]第3段階
少しわかりにくい条件だが次の補助定理を証明する.
「オイラー標数の閉曲面上の標準地図に対して,ある正の整数Nがあり,F>Nである任意の整数Fについて,不等式
NF>6(F−χ)・・・・・・・(3)
が成立する.」
という条件があれば,F(>N)国からなる標準地図中に必ずN−1辺以下の国がある.
証)結果を否定すると,すべての国がN辺以上だから,のべNF本以上の辺が2回数えられるので
NF≦2E・・・・・・・(4)
である.(2)を(1)に代入すると
χ=F+V−E=F+2/3E−E=F−1/3E
であり,
F−χ=E/3≧NF/6
すなわち,6(F−χ)≧NFを得る.これは条件(3)の不等式と矛盾する.
系)したがって,その標準地図ではN色で塗り分けられる(第2段階の帰納法).
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[4]第4段階
条件(3)を満たす最小のN0を求める.χの正負によって場合分けがいる.
(i)χ>0のとき,N0=6とすれば明らかである.
[注]χ=1のときには実際に6色が必要十分である.χ=0のときには6−1=5辺以下の国があるという事実は正しく,6色で十分なことが導かれる.ただしこれは不完全な結果である.ケンペの方法によって5色で十分なことが証明できる.4色で十分という四色問題はこれとは別の大問題(大定理)である.
(ii)χ=0のときN0=7が最低である.実際向きづけられるときには7色が必要十分である.
(iii)χ<0のとき(このときが本題),N≧7でなければならない.(3)を(N−6)F>−6χ>0と置き換える.N−6>だからFが大きいほど有利である.したがって,F>Nである最低のF=N+1について成立すればよい.
(N−6)(N+1)+6χ>0
とすると,Nに関する2次不等式
N^2−5N+(6χ−6)>0
を与える.N>0だから,この解は
N>{(5+√(25−4(6χ−6))/2}={(5+√(49−24))/2}
を得る.
Nは整数である(本当に大きい)から,最低の値は
N0=[右辺+1]=[{7+√(49−24χ)}/2]
[注]具体的な数値を示すと次の通りになる.
g(向きづけられるときのg)
N0(ヒーウッドの数):[4]は機械的な計算(前述の注参照)
χ : 2 1 0 −1 −2 −3 −4 −5 −6 −7 −8 −9 −10
g : 2 1 2 3 4 5 6
N0:[4] 6 7 7 8 9 9 10 10 10 11 11 12
===================================