■ビュフォンの針の問題(その26)

 マクスウェル,レイリーの後,ミラーが多次元正規分布での原点からのユークリッド距離の確率分布として一般的なχ分布を導いています.ミラーにならって,任意の次元のχ分布を導いてみましょう.

 n次元正規分布は

p(x1,x2,x3,・・・,xn)=1/(2π)n/2σnexp{-(x12+x2+・・・+xn2)/2σ2}

で与えられます.多次元正規分布の場合,低次元の場合とは違って,密度の裾にあたる領域に大部分のデータが存在します.また,n次元ユークリッド空間の点(x1,x2,x3,・・・,xn)は

r>0,0≦θ1,θ2,・・・,θn-2≦π,0≦θn-1≦2πを満たすr,θ1,θ2,・・・,θn-1によって,

x1=rcosθ1

x2=rsinθ1cosθ2

x3=rsinθ1sinθ2cosθ3

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

xn-1=rsinθ1sinθ2・・・sinθn-2cosθn-1

xn=rsinθ1sinθ2・・・sinθn-2sinθn-1

と表すことができます(ただし,n=2のときは,周知のとおり,x1=rcosθ1,x2=rsinθ1とする).

(r,θ1,θ2,・・・,θn-1)がn次元極座標で,そのとき,ヤコビアンD(x1,・・・,xn)/D(r,θ1,・・・,θn-1)は

r^(n-1)sin^(n-2)θ1・・・sin^2θn-3sinθn-2

となりますから,同様にして

ds=sin^(n-2)θ1・・・sin^2θn-3sinθn-2dθ1dθ2・・・dθn-1

dx1dx2・・・dxn=r^(n-1)drds

 

 ここで,n次元単位超球の表面積をSn-1=nVnで表すと,(2*π^(n/2))/Γ(n/2)はn次元単位超球の表面積であり,

p(x1,x2,x3,・・・,xn)dx1dx2・・・dxn=nVn/(2π)n/2σnexp{-r2/2σ2}r^(n-1)dr1/nVnds

Vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)より

p(x1,x2,x3,・・・,xn)dx1dx2・・・dxn=1/(2^(n/2-1)Γ(n/2))σnexp{-r2/2σ2}r^(n-1)dr*Γ(n/2)/(2*π^(n/2))ds

が得られます.したがって,

1/(2^(n/2-1)Γ(n/2))σnexp{-r2/2σ2}r^(n-1)

がχ分布の密度関数となります.

 

 このような理由から,近年,χ分布は一般化されたレイリー分布(generalized Rayleigh distribution)として論文にも引用されることが多くなっています.χ分布はとくに電気通信分野で広い応用範囲を有して,その分野ではm分布とも呼ばれています.

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