■ビュフォンの針の問題(その18)

【4】コーシー分布の標本平均値の分布

 つぎに,特性関数を利用して,正規分布とコーシー分布からの標本平均の分布を調べてみます.x1,x2,・・・,xnが互いの独立で同じ正規分布N(μ,σ^2)に従うとき,標本平均(x1+x2+・・・+xn)/nの特性関数は,

  [φ(t/n)]^n=[exp(iμt/n-σ^2t^2/2n^2)]^n=exp(iμt-σ^2/nt^2/2)

これはN(μ,σ^2/n)の正規分布そのものです.

 一方,x1,x2,・・・,xnがすべて同じコーシー分布:f(x)=1/π・α/(α^2+(x-μ)^2)に従うとき,コーシー分布の特性関数は

  φ(t)=exp(iμt-α|t|)

ですから,標本平均の特性関数は,

  [φ(t/n)]^n=[exp(iμt/n-α|t/n|)]^n=exp(iμt-α|t|)

すなわち,もとの分布とまったく同じです.このことはコーシー分布に従う変量を測定するとき,何回測定を繰り返したとしても,分散は小さくならないことを意味しています.

 この結果からコーシー分布に従う変数については中心極限定理が成立しないことがわかります.一様分布などほとんどすべての分布に対して,中心極限定理は成り立つのですが,コーシー分布のように分散が無限大になる分布に対しては適用できないのです.

 中心極限定理「分布が平均と分散をもちさえすれば,互いに独立な小さな誤差の集積した結果は,平均と分散以外の微細構造にはよらず,漸近的につねにガウス分布にしたがう」が成り立つための条件等については,リンデベルグ,レビィ,リアプノフなどにより非常に詳しく研究されていて,実は独立な確率変数の和の分布の極限としては正規分布以外のものも可能です.正確にいうと和の分布の極限は,無限分解可能な分布で近似されるというのが中心極限定理であり,さらに,再生性をもつ分布のうち極限分布が正規分布になるための条件も「中心極限定理」清水良一(教育出版)などのなかで詳しく述べられています.それによると,平均や分散をもたないコーシー分布を別にすれば,正規分布に近づきます.ただし「中心極限定理が成り立つ」といっても,正規分布への収束の速さとタイプはさまざまで,一般に左右非対称の分布では収束の遅いことが確かめられています.

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