■ビュフォンの針の問題(その16)

【2】確率変数の和・差の分布

(例題)正規分布の積率母関数:M(t)=exp(μt+σ^2t^2/2)より,μ1,μ2を求めよ.

  M'(t)=(μ+σ^2t)exp(μt+σ^2t^2/2)より E[x]=M'(0)=μ

  M"(t)=(σ^2+(μ+σ^2t)^2)exp(μt+σ^2t^2/2)より E[x^2]=M"(0)=σ^2+μ^2

したがって,μ1=μ,μ2=σ^2

 積率母関数には,和の分布の積率母関数は積率母関数の積で表されるという重要な性質があります.すなわち,x1,x2,...,xnが独立で,それぞれの積率母関数をMx1(t),Mx2(t),・・・,Mxn(t)とするとy=x1+x2+・・・+xnの積率母関数My(t)はMy(t)=ΠMxi(t)で表されるというものです.とくに,x1,x2,・・・,xnの積率母関数が同じ積率母関数Mx(t)をもつとき,My(t)=[Mx(t)]^nとなります.

 正規分布の和の分布について考えてみましょう.xがN(μx,σx^2)に,YがN(μy,σy^2)にしたがい,両者が独立であればx+yの積率母関数は

  Mx+y(t)=Mx(t)*My(t)=exp(μxt+σx^2t^2/2)exp(μyt+σy^2t^2/2)=exp((μx+μy)t+(σx^2+σy^2)t^2/2)

これはN(μx+μy,σx^2+σy^2)の積率母関数にほかなりません.したがって,正規分布の和の分布はまた正規分布となります.これを正規分布の再生性といいます.ポアソン分布や負の2項分布,コーシー分布やガンマ分布も再生性を有しています.

 一方,差の分布の積率母関数は,Mx-y(t)=Mx(t)*My(-t)で表されます.例題と同様に,正規分布の差の分布は

  Mx-y(t)=Mx(t)*My(-t)=exp(μxt+σx^2t^2/2)exp(-μyt+σy^2t^2/2)=exp((μx-μy)t+(σx^2+σy^2)t^2/2),すなわち,N(μx-μy,σx^2+σy^2)の正規分布になることを示すことができます.ところが,ポアソン分布の差の分布はポアソン分布にはならず,ベッセル関数を用いて表されます.

 話は少し脱線しますが,2つの正規変数の和の分布は別の正規分布に従います.これを正規分布は加法に関して不変(invariant)であるといいます.このとき,和変数の分散σ^2は個々の変数の分散σ1^2とσ2^2の和と等しくなります.すなわち,

  σ^2=σ1^2+σ2^2

です.加算は2乗の世界(分散)で成立し,1乗の世界(標準偏差)では成立しません.このような加算が成り立つ分布は正規分布が唯一です.

 正規分布では標準偏差σを4分位偏差sで置き換えても

  s^2=s1^2+s2^2

は成立します.

 コーシー分布は標準偏差・分散をもたない分布をして知られていますが,quantile(fractile)の存在は保証されます.コーシー分布も加法に関して不変で,コーシー変数の和の分布は再びコーシー分布になります.そして,4分位偏差に関して

  s=s1+s2

すなわち,1乗の世界での加算が成り立ちます.

 同様にして,レヴィ分布については,1/2乗の世界での加算

  s^1/2=s1^1/2+s2^1/2

が成り立ちます.

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 以上まとめると

  s^k=s1^k+s2^k

  k=2:正規分布

  k=1:コーシー分布

  k=1/2:レヴィ分布

となります.

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