■ビュフォンの針の問題(その13)

【2】離散コーシー分布

 コーシー分布を取り上げましたが,どちらも裾の重い分布で,前者の累積分布関数は逆正接関数,後者の累積分布関数は双曲線正接関数で表されるという違いを示したかったからです.

 この節では,離散コーシー分布

  f(x)=C・1/(1+n^2)   (−∞<n<∞)

について考えてみますが,

  Σ(-∞,∞)1/(1+n^2)

 =π(1+exp(−2π))/(1−exp(−2π))

 =π/tanh(π)

より,

  C=tanh(π)/π

となります.すなわち,連続コーシー分布の1/πがtanh(π)/πに変わった形をしているというわけです.

  Σ(-∞,∞)1/(1+n^2)=π/tanh(π)

  Σ(-∞,∞)1/(n+α)^2=π^2/(sin(πa))^2

  α=1/2→ Σ(-∞,∞)1/(n+1/2)^2=π^2=6ζ(2)

はパーセバルの等式の応用として得られる公式で,とくに

  Σ(-∞,∞)1/(1+n^2)=π/tanh(π)

  Σ(-∞,∞)(−1)^n/(1+n^2)=π/sinh(π)

は,ゼータ関数の値を直接表すものではないもののゼータの香りが漂う美しい式と考えられています.

 この結果をさらに一般化すると

  Σ(-∞,∞)1/((α/2π)^2+n^2)=π(2π/α)/tanh(α/2)

  α=2π→Σ(-∞,∞)1/(1+n^2)=π/tanh(π)

  α=π→ Σ(-∞,∞)1/(1/4+n^2)=2π/tanh(π/2)

を得ることができます.

 見方によっては逆正接関数と双曲線正接関数の間の変換式になっているというわけです.ゼータ関数の話が出てきたついでに・・・

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[補1]ゼータ関数ζ(s)=Σ1/n^sについて,ζ(1)は発散し,オイラーはζ(2)=π^2/6であることを証明した.すべての偶数sに対しζ(s)の値は無理数であるが,アペリは1979年にζ(3)が無理数であることを証明した.その後,2000年にリボールが無限個の奇数sに対しζ(s)が無理数であることを証明した.2001年にリボールはこの結果を精密化し,ζ(5)からζ(21)までの奇数sのうち少なくとも1つのsについて無理数であることを証明した.同年,ズディリンはこの範囲をζ(5)からζ(11)までに狭めることに成功した.

[補2]ワイルスがフェルマー予想を証明したときのほどの興奮はなく解かれた予想もある.たとえば,カタラン予想がそうである.カタラン予想の主張は

  x^p−y^q=1

の整数解が(x,y,p,q)=(3,2,2,3)だけであるということ,すなわち,8と9だけが唯一連続するベキ乗数であるということである.

 ベルゲンは1320年頃,

  3^p−2^q=1

ならば(p,q)=(2,3)であることを証明した.1734年,オイラーは,

  x^2−y^3=1

ならば(x,y)=(3,2)であることを示した.オイラー以後,カタラン予想の一般的な証明は多くの数学者たちの挑戦を退けてきたが,2002年,ミハイレスクがすべてを解決した.

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