■ピックの公式と三角形分割(その25)
n次の行列式(determinant)はn個の項の積のn!個の項に適当な符号をつけた和として表される.符号をつけずに全部+にして加えた式はpermanentと呼ばれる.訳語はないが,強いて訳せば永久式である.
2つの行(または列)が比例するとき,行列式の値は0となるから,すべての成分aij=1/nの行列Jnの行列式は0であるが,永久式の値はn!/n^nである.
===================================
【1】ファン・デル・ヴェルデン予想
n次の行列で成分aij≧0,行和=1,列和=1のとき(n×n二重確率行列),永久式の値≧n!/n^nである.等号はJnのときのみ成立する.
1926年に提唱されたこの予想は2人のロシア人Egorycev(1980年),Falikman(1981年)により独立にまったく別な方法で証明された.
ところで,スターリングの公式の図形的近似式において,
n!は直角三角錐
n^nは立方体
と関係している部分である.すなわち,n^n/n!は1辺の長さnの立方体を切断した直角三角錐の体積になる.
図形的証明に対して,スターリングの近似の組み合わせ論的証明も可能かもしれない.n^nは{1,2,3,・・・n}から{1,2,3,・・・n}へのinto写像,n!は{1,2,3,・・・n}から{1,2,3,・・・n}へのonto写像であるからだ.
===================================
n→∞のとき、スターリングの公式n!〜√2πnn^nexp(-n)より
n!/n^n〜√2πnexp(-n)
===================================
n次の異なるラテン方陣の総数をL(n)とおく。たとえば、5次のラテン方陣のについて非同型なものは2つしかないが、同型性を無視すれば
5!・4!・56個もある。このようにn次のラテン方陣の個数は急激に増えていく。
ライザーはファン・デル・ヴェルデン予想が正しければ
L(n)≧(n!)^(2n-2)/n^(n^2)
を導くと指摘した。ファン・リントとウィルソンはこれが漸近的に正しいオーダーであることを証明した。
L(n)≧(n!)^(2n)/n^(n^2)
(L(n))^1/n^2〜exp(-2)n
===================================
(L(n))^1/n^2〜{(n!)^(2/n)}/n
〜{(2πn)^1/n)(n^2)exp(-2)}/n
〜exp(-2)n
===================================
{(2πn)^1/n→log(2πn)/n→1/n→0
{(2πn)^1/n→1
===================================