■格子正多角形の決定問題(その7)
(Q)正方格子Z^2の格子点3個を選んで正三角形を作ることは可能か?
この問題は不定方程式
x^2+y^2=z^2+w^2=(x−z)^2+(y−w)^2
を解くことと同じである.
一般に,どのようなnに対して正n角形が作れるかについては,正方格子の代わりに正三角形格子ではどうなるか? 立方格子では・・・? m次元格子では・・・?と発展展開させることができる.さて,答は・・・?
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【1】シェレルの定理
n≧5,n≠6のとき,Z^3内の格子正n角形は存在しない(シェレルの定理,1946年)
証明は驚くほど簡単である.
前原潤,桑田孝泰「知っておきたい幾何の定理」共立出版
を参照されたい.
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【2】格子正三角形の場合
「Z^2上で格子正三角形は存在しない」
(証)格子正三角形の頂点を(a,b),(0,0),(c,d)としても一般性は失われない.
[c]=[cosπ/6,−sinπ/6][a]
[d] [sinπ/6, cosπ/6][b]
cosπ/6=1/2,sinπ/6=√3/2.(a,b)は整数より,(c,d)のいずれかは無理数となり矛盾.
系「Z^2上で格子正六角形は存在しない」
系「Z^2で格子正n角形は正方形に限る」
ところが,
「Z^3上で格子正六角形が存在する」
(証)1辺の長さが2の立方体の6辺の中点を結ぶと格子正六角形が得られる.
系「Z^3上で格子正三角形が存在する」
シェレルの定理より
系「Z^3上の格子正n角形は正三角形,正方形,正六角形だけである」
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【3】n次元格子では・・・?
n次元超立方体の頂点をうまく結んで正軸体を作ることはできる場合があります.正軸体は中心を通るn本の互いに直交する直線上に等間隔に点をとった合計2n点で作られます.したがって,座標(±1,±1,・・・,±1)(n次元ベクトル)の中からうまくn個の互いに直交する組が選べれば正軸体ができます.
これは+1,−1を成分とする直交行列(アダマール行列とよばれる)を作るのと同一で,nが4の倍数であることが必要条件になります.逆にnが4の倍数のとき,アダマール行列ができるか?は有名な未解決問題です(たぶんそうだろうと考えられ,かなり多くのnについて正しいことがわかっています).
だから,nが4の倍数である場合にはうまく頂点を選んで正軸体ができる場合があります(n=4はもちろんだが,n=8など).
正単体の場合は一層厄介ですが,たぶん不可能と思います.1辺の長さ1のn次元超立方体の頂点間の距離は1,√2,√3,・・・,√nのいずれかであり,1辺の長さaのn次元正単体の体積は(n+1)^1/2a^n/2^n/2n!ですから,格子点を結んでできる単体が正単体になりうる必要条件は(n+1)^1/2が√2,√3,・・・,√nで有理的に表される必要があります.
これは特定のnについては可能(例えばn=3なら(n+1)^1/2=2で実際可能)ですが,n=2のとき正方格子の頂点を結んで正三角形ができない(√3が無理数のため)の証明と相通じます.n=4では(n+1)^1/2=√5が邪魔して,同様に不可能と思います.もちろんこれは可能なための必要条件のひとつにすぎず,可能な場合があるかもしれません(例えばn=8について).
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