■正多面体の正多角形断面(その62)
【2】n次元超球
球に相当するn次元の図形を超球と呼びます.n次元単位超球{x12+x22+・・・+xn2≦1}の体積をVnとすると,V1=2(直径),V2=π(面積),V3=4π/3(体積)はご存知でしょう.n次元単位球はどんなに次元が高くても,長さが2より大きな線分を含むことはできません.
したがって,n=2,3,4では単位立方体(対角線の長さ√n)は単位球体の中に含まれますが,n≧5でははみ出る部分があり,次元とともにはみ出る部分が増えていきます.単位球体の直径は次元によらず2なのです.
n次元単位超球の体積Vn,その表面積を表面積Sn-1とすると,単位超球の表面積Sn-1はnVn,半径rのn次元球の体積はVnr^n,表面積はnVnr^(n-1)となります.n次元単位超球の体積Vnを求めてみると,
Vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)
を得ることができます.また,Γ(m+1)=m!より,この結果は,形式的に
Vn=π^(n/2)/(n/2)!
と書くことができます.
Vn-1がわかれば,Vnは漸化式:
Vn/Vn-1=Γ(1/2)Γ{(n+1)/2}/Γ(n/2+1)=B(1/2,(n+1)/2)
によって求めることができますが,この計算は面倒ですから,Vn-2との漸化式
Vn/Vn-2=2π/n
を用いると任意のnに対して
nが奇数であれば,Vn=2(2π)^((n-1)/2)/n!!
nが偶数であれば,Vn=(2π)^(n/2)/n!!
とも書けることも理解されます.1次元から6次元までを具体的に書けば,
Vn=2,π,4π/3,π2/2,8π2/15,π3/6
という具合に,πのべき乗は偶数次元になるたびに1つあがります.
そして,n→∞のとき,
Vn/Vn-2=2π/n→0
Sn-1/Sn-3=nVn/(n-2)Vn-2=2π/(n-2)→0
ですから,不思議なことに,単位球面の体積や表面積はn→∞のとき0に収束するのです.
nが整数のとき,実際にVnの値を計算してみると,1次元から14次元までの具体的数字は次の通りです.
n Vn
1 2
2 3.14
3 4.19
4 4.93
5 5.263
6 5.167
7 4.72
8 4.06
9 3.30
10 2.55
11 1.88
12 1.36
13 0.91
14 0.60
このように,超球の体積はn=5のとき最大8π2/15=5.2637・・・となり,以後は次元とともにどんどん減少します.(次元を整数に限らなければ5.256次元で最大となり,そのときの体積は5.277・・・である.)
幾何学では5,6次元を境にして本質的に様子が変わっていることが少なくないのですが,このことはその原因の一端をほのめかしていると考えられます.
また,このことから,n次元超立方体[-1,1]^n(体積2^n)において,単位超球が占める比率は,n=2であればπ/4(79%)であるが,n=5のときは16%に下落し,n=10となると0.25%になることも理解されます.
n Vn/2^n
1 1
2 0.79
3 0.52
4 0.31
5 0.16
6 0.08
7 0.04
8 0.02
9 0.006
10 0.0025
ここで重要なのは,単位超球を超立方体中に置くと,次元が大きくなるにつれて隙間がより大きくなる点です.したがって,高次元において超立方体内に一様分布する標本を考えるとき,低次元の場合とは対照的に,大部分のデータは超球外に位置することになります.
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