■スピログラフ(その3)

ロータリーエンジン諸元は偏心量eと創生半径Rの比であるK(=R/e)と排気量から決められる.Kを大きくすればくびれは減るが,躯体が大きくなるので少しくびれがある諸元が選ばれる[1].すなわち,ロータリーエンジンに繭型形状の「くびれ」はつきものであるが,このくびれをなくし(無節化),2個の半円を2本の線分で補間したスタジアム型(競技場型)へと改良したい.ペリトロコイドの呪縛から解放し,円と直線とすれば内燃機関としてのメリットも得られる.

先日開催された形の科学会において、ロータリーエンジンの繭型形状のへこみを矯正し,2個の半円を2本の線分で補間したスタジアム型(競技場型)へと改良したい.ここではフルヴィッツのフーリエ級数論の応用として,精確に円と直線に沿って動く機構を紹介した.

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【1】フーリエ級数論の萌芽

古代ギリシャの人々はすべての天体の運動は円とその組み合わせによって支配されると考え,固定円の軌道上を小さく円を描きながら動く回転円(周転円・エピサイクル)を使って地球の周りを運行する惑星の軌道を説明した.たとえば,原点を中心とする半径aの円の円周上を等速αで公転する点があり,その点の周りを半径b・等速βで自転するエピサイクル上の点の軌跡は

x=acos(αt)+bcos(βt)

y=asin(αt)+bsin(βt)

で表される.その後,回転運動の合成がよくあてはまらない惑星に対する補正として第3の円・第4の円,・・・を用いたため,初期のモデルは徐々に複雑なものとなってしまい,そのエレガントさは失われていった.

x=acos(αt)+bcos(βt)+ccos(γt)+dcos(δt)

y=asin(αt)+bsin(βt)+csin(γt)+dsin(δt)

惑星運行の連続かつ閉軌道はすべて周転円を使って記述することができると考えたところに本質的な無理があったのである.このことは今日から見れば真理ではないにしろ,19世紀初頭にフーリエが波や振動を正弦曲線に分解できると考えるに至った萌芽とすべき出来事である.(前者がペリトロコイド曲線,後者がその無節化に対応している)

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【2】フルヴィッツのフーリエ級数論(1902)

フーリエ級数と呼ばれる関数展開は,フランスの数学者・物理学者フーリエが熱伝導に関する著作の中で,鉄の輪を熱したときの温度分布を解析する熱伝導の考察から誕生し,任意の周期関数y=f(x)がサインとコサインの項の和,すなわち,単振動の和に分解されることを証明したことに始まる.フーリエ級数は波動や振動現象の解明をはじめ多くの応用分野をもっている.フルヴィッツが20世紀初頭に発表した有名な論文[2]にはフーリエ級数を用いた等周問題の厳密な証明のほか,アステロイドの平行曲線は正三角形の内転形であること,デルトイドの平行曲線が定幅曲線(平行な支持線間の距離が一定な卵形線)であることなどが証明されている.この論文からの刺激をうけて,藤原松三郎は一般的な凸多角形の内転形についてフーリエ級数論を応用して解析的に研究した[3].

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