■空間の因数分解(その12)

もうずいぶん前のことになるが、化学者の細矢治夫先生がある講演の中で「群論というのは空間を丸ごと因数分解することである」という銘言をおっしゃられたことがある。細矢治夫先生は化学のみならず数学にも造詣が深く、多数の数学論文や書籍を上梓されておられる。

銘言のごとく、空間の対称性はポアンカレ多項式の因数分解の中に集約されているといえる。

===================================

3次元の切頂八面体{3,3}(1,1,1)、大菱形立方八面体{3,4}(1,1,1)、大菱形20・12面体{3,5}(1,1,1)のステップ数はそれぞれ6,9,15になるが、途中経過まで含めて、直径の両端点を結ぶ経路の母関数を求めてみると、それぞれ、係数が対称に配置された多項式

1+3x+5x^2+6x^3+5x^4+3x^5+x^6

1+3x+5x^2+7x^3+8x^4+8x^5+7x^6+5x^7+3x^8+x^9

1+3x+5x^2+7x^3+9x^4+11x^5+12x^6+12x^7+12x^8+12x^9+11x^10+9x^11+7x^12+5x^13+3x^14+x^15

が得られる。これらは因数分解することができて、

(1+x)(1+x+x^2)(1+x+x^2+x^3)

(1+x)(1+x+x^2+x^3)(1+x+x^2+x^3+x^4+x^5)

(1+x)(1+x+x^2+x^3+x^4+x^5)(1+x+x^2+x^3+x^4+x^5+x^6+x^7+x^8+x^9)

ここで、Φn(x)=(1-x^n)/(1-x)と定義すると

Φ2(x)Φ3(x)Φ4(x)

Φ2(x)Φ4(x)Φ6(x)

Φ2(x)Φ6(x)Φ10(x)

と簡潔に表現される。

===================================

たとえば、Φ2(x)Φ3(x)Φ4(x)は切頂八面体の2回・3回・4回回転対称性を意味していると解釈することができる。このことは、経路母関数が後述する群の対称性を表す固有方程式と同じ意味をもっていることを示している。

4次元の{3,3,5}(1.1,1,1)の経路母関数も指数列m+1=(2,12,20,30)からΦ2(x)Φ12(x)Φ20(x)Φ30(x)で与えられる。

細矢治夫先生はこのことを空間の因数分解にたとえたのである。

===================================