■形の科学会レポート(その1)

 今年の形の科学会は、コロナ禍のなか、オンラインで行われた。私も含め、オンライン操作に不慣れの講演が続出した。

 講演に対する質問を差し上げたかったのだが、後日メールで質問することにした。対面式だったら、休憩時間に演者と雑談できたであろうにと思う。

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 まずは、自分の講演を要約してみたい。3題あるが

[1]高次元のワイソフ多胞体の対蹠点を何本の辺で結べるかという問題

 出発地から目的地までバスや鉄道を乗り継いで何行程で到達できるかという問題は、日常生活の中でしばしば体験されるものである。

 特殊な多胞体について上記の問題の解は知られていて、群論的な方法で計算した完全なリストができている。もっとも、そのことを知っている数学者はほとんどいない・・・

 大多数を占める一般のワイソフ多胞体については確立した方法がなく、(上限はわかっているものの)解は知られていない。

 わたしはこの未解決問題をほぼ解決した。ほぼといった理由は、一部の高次元多面体を除き、コンピュータによる確認作業がとれていないからであるが、誤差があるとはいっても高々1-2程度であると思う。

 ワイソフ多胞体は点と線で構成されるグラフ(コクセター・ディンキン図形)で表現されるが、この図形はまるで古代エジプトの神聖文字のようで、数学者にとっても意味不明のものである。

 以前の話になるが、私はコクセター・ディンキン図形を解読する方法を開発した。この図形と1:1に対応するコードを入力すると、頂点や辺などk次元面の数や形を出力してくれるというものである。

 ワイソフ多胞体は一様多面体であるから、ひとつの頂点周りの状況は等しいので、頂点周りに集まる頂点や辺などk次元面の数や形も算出することができる。

 ワイソフ多胞体の対蹠点を何本の辺で結べるかという問題を解くのに、この経験が大変役立った。

 最も簡単な方法は、目測できる部分は目測で、目に見えない部分はイマジネーションを働かせて数え上げて合算するのであるが、A群・B群に対しては目算は不要で、直接コクセター・ディンキン図形から求めることができる。

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[2]ヒマワリの花

 ヒマワリの花序はいろいろな本で取り上げられている由緒正しい(古典的?)な問題である。

 平面らせん上に点を配置する問題といってもよいが、平面らせんといってもいろいろならせんがある。対数らせん、アルキメデスらせん、フェルマーらせん、・・・

 これらは見た目がまったく異なる曲線で、対数らせんは中心から離れるほど間隔が広がるが、アルキメデスらせんは幅が一定、フェルマーらせんは逆に狭くなる。

 

 驚いたことに、これらはいずれもヒマワリの花序を表している。たとえば、一列の花序を追跡すると対数らせんを描く。左巻き・右巻きの花序列はそれぞれフィボナッチ数になる・・・などはよく知られている。

 

 ところで、葉序則とは開度(角度)が一定という法則であるが、原点からの距離を表す法則ではなく、距離の規則としてアルキメデスらせんかフェルマーらせんが適用される。

 アルキメデスらせん上に開度が黄金角となるように点を配置すると中心部が密に、周辺部が疎な分布があらわれる。したがって、中心部を小さな点、周辺部を大きな点で表す必要が出てくる。ヒマワリの成長過程を表しているといってもよい。

 一方、フェルマーらせんを用いると、ボロノイ領域の面積がほぼ一定で一様な分布の点集合が得られる。このようなつかず離れずの集合をDelone集合という。Delone集合は準結晶のモデルとして用いられている。

 根岸利一郎先生は両者の中間のらせんを考え、フーリエ解析を用いた発表をされていたが、私はらせんの形を固定し、開度をダイナミックに変化させてみた。

 開度が黄金角の場合、ヒマワリの花をよく模倣する点分布が得られるが、開度をダイナミックに変化させると、ヒマワリの花とは似つかないものになる。

 たとえば、開度を8/21(13/21)にするとマーガレットの花びらを模倣する点分布が得られるのであるが、黄金比の代わりに白銀比や青銅比を用いてもヒマワリの花を模倣する点分布は得られない。

 (aτ+b)/(cτ+d)でもヒマワリの花を模倣する点分布は得られないのであるが、1/(τ+d)のときはヒマワリの花をよく模倣する点分布が得られた。しかしながら、このような数のcardinalityは0であり、実数から無作為に開度を選んだとしたら、ヒマワリの花とはならないのである。

 この問題は開度の初期条件の小さな変化が引き起こす予測不可能性の問題(カオスの問題)にも共通するところがあるが、自然界の植物が開度を調節・制御しているとは考えづらいところがある。カオスの問題と考えるよりも準結晶の問題を考えたほうがよさそうである。

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[3]大きさの異なる2種類の球を円筒内に配置する問題

 もし、大きさの等しい球を円筒内に配置し、最密球充填としたいならば、円筒径に等しい球を用いれば最密球充填密度2/3が得られる。

 そこで、Boerdijk-Coxeter helix(BCH)の頂点に同大球を配置し、それを円筒内に挿入するとする。その場合の局所最密球充填密度を計算したところ、50.7%であった。この値は最密球充填密度74.0%(π/√18)よりもかなり小さいことがわかる。

 なお、最密楕円体充填密度は74%よりも大きく

(24√2-6√3-2π)π/72=0.753355・・・

であるという。

 https://mathworld.wolfram.com/EllipsoidPacking.html

 BCHを変形させて一様な空間らせんを構成して、空間らせん上の大きさの異なる2種類の球の配置問題を考えることにした。

 周期的ならせんも非周期的ならせんも構成することができて、その場合の充填密度を計算することもできたが、一目で大きさの異なる2種類の球配置だとわかるためには、かなり狭い範囲に限られることがわかった。

 この構造を調べるために直線状の紙を折って「注連縄折り」を作ったが、コラーゲンやDNAのCoin in coil構造を作るためには展開図が直線状になるものではなく、DNAの自己非交差酔歩状の展開図が必要になった。

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