■アポロニウスの最大最小問題(その15)
ある曲線に対して,その曲線上の各点より法線方向へ一定の距離にある曲線を「平行曲線」といいます.平行曲線とは鉄道の線路のようなものと考えてもらって差し支えないのですが,ある曲線上を円が転がるとき円の中心の描く軌跡であり,また,初期曲線を波面と考えたときの波面(フロント)の時間発展でもあります.平行曲線は光を波とみなした場合の波頭と考えられるというわけです.
すなわち,平行曲線の考え方は,幾何光学におけるホイヘンスの原理にすでに認めることができます.ホイヘンスの原理とは,光を波とみなすとき,波面の各点から波が新たに発生すると思って半径一定の球面を描くと,その球面の包絡面が次の波面を決めるという光の進行原理のことです.
直線の場合,「平行曲線」は平行線であり,円の場合は同心円になります.直線と円は曲率が一定の平面曲線で,曲率一定の平面曲線は直線と円に限られます.
楕円の場合は4つのカスプをもつ曲線が浮かび上がってきましたが,これは単純閉曲線の4頂点定理と関係しています.通常のなめらかな曲線上では曲率円は曲線の2次近似となるのですが,頂点とは曲率円が3階微分以上に過剰に近似されてしまう特別な点のことで,単純閉曲線上には頂点が少なくとも4個存在するというのが4頂点定理です.曲線の曲がり具合を記述する微分幾何学の本では,卵円線の場合の証明がよく紹介されています.曲線の頂点は対応する縮閉線上に特異点を作るのです.
直線と円の平行曲線は平面をもれなく覆いつくし,しかも重複なくただ一回だけ覆うという点に注目してみましょう.しかし,特異点が現れると,平面をただ一回だけ覆いつくすことはできません.ある曲線の平行曲線が平面をただ一回だけ覆いつくすには,曲率一定の直線と円のみがこの性質を満たしているというわけです.
微分幾何学の基礎的知識によって,縮閉線の特異点が楕円と円の曲がり具合の違いを記述すること,平行曲線の特異点はその曲線の縮閉線上に現れること,すなわち,楕円の平行曲線の特異点は縮閉線であるアステロイド上に現れること,与えられた曲線の法線の包絡線は特異点の集合としてとらえることができることなどが理解されます.
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