■2次方程式(その5)
【5】ピゾ数
任意の無理数γを与えたとき,
γ^n=[γ^n]+{γ^n}
において,γ^nの非整数部分{γ^n}のn=1,2,3,・・・としたときの分布については,{γ^n}が一様分布しない例が,ピゾ数である.
τ=(1+√5)/2,γn={τ^n}とする.γnは[0,1]で一様分布しないのであるが,ここでは非整数部分でなく,一番近い整数との距離を調べてみると
|τ^1|=.38179
|τ^2|=.38179
|τ^3|=.23607
|τ^4|=.14590
|τ^5|=.09017
・・・・・・・・・・・・・
となって,0に近づくことがわかる.
その理由は簡単で,
τ=(1+√5)/2=α,(1−√5)/2=β
とおけば,これらはx^2−x−1=0の2根で,
α+β=1,αβ=−1
α^n+β^nは常に整数となる.このとき,
|β^n|→0,|α^n|→整数
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一般に,最高次の係数が1である整数係数多項式の根となる数(代数的整数)で,根γ>1,他の根はすべて絶対値が1より小さい場合,γをピゾ数という.
最小のピゾ数はx^3−x−1=0の根である1.3241795・・・.他の2根は複素共役で,−0.66236±0.56228iで,絶対値は1より小さい.白銀比・青銅比もピゾ数である.
サレムはピゾ数全体の集合が実軸上で閉集合になるという驚くべき結果を示した.x^2−x−1=0の根である黄金比φ=1.618033988・・・はその集合の最小の集積点である.2はピゾ数全体の第2集合の最小元である.
秋山茂樹先生(筑波大学)によれば,ピゾ数が準結晶と関連する理由は,ピゾ数がある種の反発力をもっているからであるという.例として,最高次の係数が1,それ以外の係数が{−1,0,1}だけからなる多項式で表せる数全体の集合S(τ)を考えてみる.
すると,S(τ)は実軸上,
[1]隣り合う2点間の距離は一定値R以下(相対稠密)
[2]隣り合う2点間の距離は一定値r以上(一様離散)
という2つの重要な性質を満たしている.
このような相対稠密かつ一様離散な集合をドローネー集合をいう.整数はR=r=1のドローネー集合である.つまり,τがピゾ数ならば,S(τ)の元はあまり近づけない,すなわち,実軸上ランダムに分布できないというのが反発力になって準結晶を数理モデル化するのに適しているというわけである.
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