■掛谷宗一(その2)

【2】掛谷の問題

 藤原の論文にある正多角形の内転形の考えは,掛谷に負うところが大きいとされるが,卵形線の最大最小問題から自然に生じた問題として掛谷の問題

  「長さが1である線分を1回転させるのに必要な最小面積の図形は何か」

がある(1917年).この問題は多くの予想を生み出しました.

(例1)線分ABをAの回り180°回転した半円:面積π/2

(例2)ABを中点Oの回りに360°回転した円:面積π/4

(例3)ルーローの三角形(正三角形の各頂点を中心として他の2頂点を通る円弧を描いてできる定幅図形):面積(π−√3)/2

卵形線という条件の下で藤原はこれが高さ1の正三角形であることを予想し,パルはこの予想が正しいことを証明した(1921年). 卵形線という制限を外せば,直径3/2の円に内接するデルトイド(面積:π/8)であると予想された.

(例4)直径3/4の円を固定しておいて,その円に直径1/4の円を内接させて転がしたときにできるデルトイド:面積π/8

掛谷自身,π/8が最小値であると予想しましたし,多くの数学者も答はデルトイドではないかと予想していました.長さが1である線分を1回転させることのできるペリトロコイド星状図形の面積は[π/8,π/4)で,その下限を与えるのがデルトイドであったからです.

半円:π/2

円:π/4

ルーローの三角形:(π-√3)/2

半アステロイド:3π/16

正三角形:1/√3

デルトイド:π/8

ところが驚いたことに,1927年,ベシコヴィッチによって「前後を方向転換できるいくらでも面積の小さい図形を作ることができる」ことが証明されたのです.

ハンドルを細かく切り返すジグザグ運動を続けることで,そのような図形で面積がいくらでも小さいものがある, 1kmの長さの針でも,切手1枚分の面積の図形の中で頭と尻尾を逆に方向転換できるというのですから,ベシコヴィッチの証明は直観に反しています.常識ではとても受け入れられものではありませんが,多くの数学者にとっても予想が裏切られる結果になりましたから,その驚きはいかに大きかったであろうかと推察されます.

彼の示した解答は実に画期的なもので,多くの数学者をあっと驚かせた.掛谷の問題は問題がだれでもわかる単純明快なものでありながら,解析学と深く結びついていて解決には相応な数学の学識と優れた数学的才能を要するものだったのである.

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 ところで,多くの数学者を刺激した掛谷の問題はどのようなきっかけで思いつかれたのだろうか.矢野健太郎「ゆかいな数学者たち」(新潮文庫)には,矢野が掛谷に伺ったところ,掛谷が「昔の武士はいつ襲ってくるかもしれない不意の敵に備えて,かわやに入るときでも刀を身から離さなかった.もし襲撃されたら狭いかわやの中で刀を振り回さなければならなくなる.そこで刀を1回転させることのできるかわやの最小体積はどうなるかと考えた」と答えられたという面白いエピソードが記述されている.

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