■シンク積分(その5)
[1]超平面
原点を中心とするn次元超立方体[-1/2,1/2]^nと原点を通る任意のn次元超平面:H(a)
a1x1+a2x2+・・・+anxn=0
の交わり(切り口の体積)について考えてみましょう.
その前に,まず,aを行ベクトル,xを列ベクトルとして
a=(a1,・・・,an)
x’=(x1,・・・,xn)
また,実数をcとおくと,n次元ユークリッド空間の超平面は,
ax’=c
で表すことができます.原点を通るときc=0で,その場合,原点を中心とするn次元超立方体と超平面ax’=0は必ず交わります.
ベクトルaを超平面の法線ベクトルと呼びます.法線ベクトルはスカラー倍を除いて一意に定まります.aをその長さ‖a‖で割ったベクトルa/‖a‖を考えると,これは長さ1の単位法線ベクトルとなります.
また,aが単位法線ベクトル,すなわち,
a1^2+a2^2+・・・+an^2=1
が成り立つとき,cは原点から超平面へ引いた垂線の(符号のついた)長さとなります.
n=1なら方程式はax=bですから,超平面は点にほかなりません.n=2ならax+by=cとなり,超平面は直線,n=3ならax+by+cz=dですから,超平面は平面を表します.3次元空間内の超平面が普通の平面だし,2次元空間内の超平面は直線ですから,n次元空間の場合,n−1次元の線形多様体を超平面というのです.
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[2]ボールの定理
原点を通り,aに直交する超平面がH(a)なのですが,aの成分は,
0≦a1≦a2≦・・・≦an
を満たすものとしても一般性を失われません.もし,akが負ならば,xk軸の向きを逆にすることにより,akは正となるからです.
このとき,H(a)によるn次元単位立方体の切り口の体積は
Vn(a)=1/π∫(-∞,∞)Πsinc(akx)dx
と表されます(ボールの定理,1986年).この定理は,主として確率論的議論によって証明されるということです.
また,同じく,ボールによって
1≦Vn(a)≦√2
であることも証明されています(ボールの不等式).
ボールの不等式は「1辺の長さが1の正方形(2次元単位立方体)の切り口は単に線分になるから,その長さが最大となるのは対角線であって,最大値は√2となる.対角線とは頂点とその対角にある頂点を結ぶ線分で,正方形の原点を通るものである.また,(3次元)単位立方体の断面は,3角形・4角形・5角形・6角形などいろいろな形をとるが,立方体の中心を通り,辺とその対蹠に位置する辺を含む平面で切ったとき,断面積は最大値√2になる.」ことをもっと高次元化しても成り立つことを主張するものです.→コラム「高次元の球と立方体の断面積」
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