■正多面体(その4)
【4】切頂・切稜とワイソフ記号
切頂八面体は名前のとおり正八面体の各辺を三等分して頂点を切り取った後に残る多面体です.実は,13種類の準正多面体のなかで空間充填が可能なのは切頂八面体−−正6角形8枚と正方形6枚の2種類で作る14面体−−しかありません.
また,立方体の各辺の中点を結んで頂点を切り落とすと,6枚の正方形と8枚の正三角形の合計14面からなる準正多面体ができます.正八面体についても12本の辺の中点を結んでその頂点を切り落とすと全く同じ多面体ができます.このように立方八面体は立方体と正八面体の両方から中点を結ぶという同じプロセスでできあがる準正多面体です.日本では古くから灯篭などの照明器具などに立方八面体の形をした装飾品が使われ親しまれていますから,この立体をご存じの方も多いと思います.立方八面体は単独では空間充填形ではありませんが,正八面体と組み合わせると空間充填が可能です.
このように,準正多面体は正多面体に切頂・切稜操作を施すことによって構成することができます.ワイソフ記号の0/1コードは準正多面体の頂点座標を表していて,準正多面体の構成法はシュレーフリ記号とワイソフ記号の組み合わせで表現することができます.
旧来記号 シュレーフリ・ワイソフ記号
(3,6,6),切頂四面体,{3,3}(1,1,0)
(3,4,3,4),立方八面体,{3,3}(1,0,1) ,{3,4}(0,1,0)
(4,6,6),切頂八面体,{3,3}(1,1,1) ,{3,4}(1,1,0)
(3,4,4,4),小菱形立方八面体,{3,4}(1,0,1)
(3,8,8),切頂立方体,{3,4}(0,1,1)
(4,6,8),大菱形立方八面体,{3,4}(1,1,1)
(3,5,3,5),20・12面体,{3,5}(0,1,0)
(5,6,6),切頂20面体,{3,5}(1,1,0)
(3,4,5,4),小菱形20・12面体,{3,5}(1,0,1)
(3,10,10),切頂12面体,{3,5}(0,1,1)
(4,6,10),大菱形20・12面体{3,5}(1,1,1)
切頂八面体など,ひとつの準正多面体に対して,複数のシュレーフリ・ワイソフ記号が割り当てられているものがあります.これは切頂八面体を作る場合に,
[1]正八面体を辺の3等分点で切頂する={3,4}(110)
[2]立方体を(辺の中点を越えて)辺長の3/4の点で切頂する={4,3}(011)
[3]正四面体を辺の中点で切頂して,辺長の1/6の点で切稜する(これはいったん正八面体を作ってから,辺の3等分点で切頂することと同じ操作である)={3,3}(111)
の3通りの方法があることを示しています.
旧来記号が準正多面体の表現型であるのに対して,シュレーフリ・ワイソフ記号は準正多面体の設計図でもあり,遺伝型ともいえます.これで,無生物である多面体にも,それによって多面体の形が一意に定まるDNAのようなものが導入されたわけです.
旧来記号を高次元に拡張するのは難しいのですが,シュレーフリ・ワイソフ記号では,遺伝子コードを解読することによって,高次元の準正多面体のk次元面数や体積を計算できるアルゴリズムが存在することを申し添えておきます.
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