■数学と科学と芸術と(その6)

【6】ダリと量子論

19世紀末から20世紀初頭にかけて,物質の不連続性(原子),電気の不連続性(電気素量e)に引き続き,エネルギーの不連続性(hν)という自然の秘密は徐々に暴かれてきました.ニュートンが力学の原理からケプラーの法則を根拠づけたように,ボーアもまたエネルギーの量子化というプランクの考えを原子に導入し,量子論から水素のスペクトルに特徴的なバルマーの公式

1/λ=R(1/m^2−1/n^2)  (m,nは量子数)

の解釈を導き出しました.バルマーの公式を見たとたんに,ボーアにはすべてが明らかになったのですが,リュードベリ定数

R=2π^2 me^4/ch^3

の値を電子の質量m,電子の電荷e,光速度c,プランク定数hなどの既知の測定値に還元し得たのはボーアの偉大な業績なのです.(しかも,eについては4乗,hについては3乗しているのですからかなり複雑な関わり方をしています.)

 そして,1925年にはハイゼンベルグが行列力学を,シュレディンガーが波動力学を提唱しました.ハイゼンベルグは電子が粒子であることを前提とし,行列方程式を導きました.一方,シュレディンガーは電子の波動的性質から波動方程式を導きました.行列力学と波動力学は,別々に独立に存在し,それぞれが前提としていたことが大幅に異なっていたのですが,形式こそ違え物理的には等値で,「量子力学」という1つの理論を表現していることが証明されました.

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「雑感」

物理学が発展するにつれて自然は理解しやすいものになっていくとは限りません.電子は粒子であると思われていたのが同時に波であるとか,光も波であると同時に粒子であるとか実にパラドキシカルです.粒子と波はまったく違うカテゴリーの概念であると思われるのですが,これらは古典的な概念をはるかに超える存在であったのです.すなわち,もともと波でも粒子でもなく,実験方法によって波のような属性,粒子のような属性を表す存在なのです.

ともあれ,量子論は物質が電場や磁場の中に置かれたときの振る舞いを説明し,量子論抜きにして現代のエレクトロニクスは考えられないのです.

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