■微分幾何(その5)

【1】外から見た曲率

 平面曲線C上の点Pにおける曲率とは,点PでCに接する円で,最もよくCを近似するものの半径の逆数をいいます.たとえば,放物線:y=ax^2の原点における曲率は2aです.このように二次元空間の曲線の曲率はスカラーの値です.三次元の曲線には,曲率の他に捻れ率という概念がでてきます.この曲率は,曲線を最もよく円で近似するもので,いわば,外から見た曲率(extrinsic curvature)といえますガウス・ボンネの定理

三次元の曲面の曲がり方を測る尺度として,ガウス曲率・平均曲率があります.曲面の各点で曲がり方が最もきつい方向と緩やかな方向がありますが,ガウス曲率は曲率の最大値と最小値の積で定義され,一方,平均曲率とは2方向の曲率の相加平均で定義されます.すなわち,ガウス曲率Kと平均曲率Hは

  K=κ1κ2

  H=(κ1+κ2)/2

であって,また,曲率κ1,κ2を主曲率と呼びます.これらを用いれば,主曲率は2次方程式の根と係数の関係から

  κ1=H−(H^2−K)^(1/2)

  κ2=H+(H^2−K)^(1/2)

と表されます.これらも曲面を最もよく球で近似するもので,いわば,外から見た曲率(extrinsic curvature)でした.

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【2】内から見た曲率

それに対して,内から見た曲率(intrinsic curvature)という概念があります.曲率,捻率のかわりに第1,第2基本形式を定めるのですが,第1基本形式は,緯線・経線の長さと曲線同士の角度を定めているといえます.それに対して,第2基本形式は,接平面を基準面として曲面の曲がり方を定めています.

われわれが曲面上に閉じこめられ,外の世界については何も知らないものとしましょう.その場合,われわれにとって知りうることは,座標と運動方向と長さ(第1基本形式)だけとなります.それに対して,第2基本形式は曲面を3次元空間のなかで考えてはじめて定義される量です.

 第1基本形式は緯線・経線の長さと曲線同士の角度を定めているので,第1基本形式をパラメータで積分することによって面積が得られます.さらに,曲面の三角形分割を合わせると,曲面の大域的な性質をガウス曲率で表すガウス・ボンネの定理が得られます.すなわち,測地線三角形ABCにこのことをあてはめると,三角形の頂点の角度をα,β,γとおくと,

  ∫∫KdA=α+β+γ−π   (ガウス・ボンネの定理)

 

 したがって,ユークリッド面(K=0),楕円面(K>0),ロバチェフスキー面(K<0)では,それぞれ,

  K=0・・・π=α+β+γ

  K>0・・・π<α+β+γ

  K<0・・・π>α+β+γ

になることが導き出されます.たとえば,双曲平面では三角形の内角の和はπより小さいが成立するというわけです.

 「ガウス曲率は,リーマン計量のみを用いて表される.ガウス曲率は第1基本形式だけで定まり,第2形式にはよらない」が成り立ちます.ガウス曲率は,その後,曲面の内在的量としてリーマン幾何学発展の基礎となりましたが,リーマンの計量(metric)とガウスの曲率(curvature)は表裏一体の関係にあったのです.

冒頭で,有名な数学者であるガウスが山に登って三角測量を行った話を紹介しましたが,ガウスがそんなことをした理由はこういう理由だったのです.もっとも,確かめられたπとの差は測定誤差に基づく近似の精度より小さく,何の結論にも至らなかったのですが,・・・

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