■非ユークリッド幾何(その3)
【3】都合のいい幾何学
もはや,どの幾何学が真であるかなどと問うことは何も意味を有しません.数理哲学者ゲーデルによれば,どんな公理系に対してもその内部で無矛盾性の証明を行うことはできないからです.したがって,ユークリッド幾何学が無矛盾なら,双曲幾何学も楕円幾何学も無矛盾だということになります.
そのため,ある幾何学が他の幾何学より正しいということはあり得ませんが,都合がいいということはあり得ます.たとえば学童は定規とコンパスを使うからユークリッド幾何学が最適,飛行機のパイロットには球面幾何学が最適など.
物理学者も自分の目的に最も合う幾何学に関心を抱きます.ニュートン物理学では宇宙をユークリッド幾何学の成り立つ曲率ゼロの平坦なものと想定しました.それに対して,アインシュタインの一般相対性理論では,曲率非零の湾曲したものと想定したのですが,1919年,日食中の太陽の裏側に隠れた恒星を撮影することによって湾曲した空間の存在が実証されたのです.
宇宙のかたちは曲率ゼロの平面か曲率正の球面であるとの見方が支配的である一方,曲率負の双曲面である可能性も残っています.双曲面は最小の体積で最大の表面積を実現してくれるからです.
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