■非ユークリッド幾何(その2)

【2】空間の曲率と基本領域

任意の直線とその直線上にない点について

[1]平面上ではその点を通る平行線は1本だけ存在する.

[2]球面上ではその点を通る平行線は1本も存在しない.

[3]双曲面上ではその点を通る平行線は無限の存在する.

このように平行線公準が成り立たない幾何学が矛盾なく存在することがわかりましたが,現在われわれの住んでいる空間がどの幾何学に従ってできているのか知るためにはどうすればよいのでしょうか?

 非ユークリッド幾何学の理論を支える最も重要な概念が空間の曲率で,曲率を理解する最も簡単な方法が三角形の内角の和です.平行線公理を取り替えて幾何学を構築すると,ユークリッド幾何学とは違ったことが起こります.たとえば,双曲平面では三角形の内角の和はπより小さいが成立します.三角形の頂点の角度をα,β,γとおくと,ユークリッド面,楕円的平面,双曲的平面では,それぞれ,

曲率ゼロ  α+β+γ=π,

  正の曲率  α+β+γ>π,

  負の曲率  α+β+γ<π

になるのです.

このことをより深く理解するために,三角形P(黒塗り)とそれを裏返した三角形Q(白塗り)の2つを交互に並べて,平面全体をタイル張りすることを考えます.たいていの場合は途中でタイル同士が重なってしまいますが,うまくいくと市松模様のタイル張りができあがります.

 

(問)Pがどのような形のとき,このようなタイル張り(平面の市松模様三角形タイル張り)が可能であろうか?

 

(答)これが可能なためには,1つの頂点で偶数個の3角形が交わらなければならないので,これを2aとおく.また,その頂点の角度をαとおくと,頂点を一回りしたので,2aα=2π.ゆえに,

  α=π/a   ただし,aは2以上の自然数.

 まったく,同様に残り2つの内角に対しても

  β=π/b,γ=π/c

 また,α+β+γ=πより

  1/a+1/b+1/c=1

 

 この等式を満たす(a,b,c)の組は非常に少ない.便宜上,a≧b≧cとすると

  (3,3,3) → 正三角形

  (4,4,2) → 直角二等辺三角形

  (6,3,2) → 30°,60°,90°の三角形

の3種類が得られる.

 

 以上の解は平面を鏡映三角形で埋めることをユークリッド面(放物的)で考えたものですが,楕円的非ユークリッド面,双曲的非ユークリッド面を問題にするならば,解は非常に異なるものになります.

  α+β+γ>π,=π,<π

 すなわち

  1/a+1/b+1/c>1,=1,<1

に応じて楕円幾何学,ユークリッド幾何学,双曲幾何学の三角形が得られます.

 

 1/a+1/b+1/c>1を満たす正の整数の組みたす(a,b,c)は高々有限個で,(n,2,2)は正2面体群,(3,3,2)は正4面体群,(4,3,2)が正8面体群,(5,3,2)は正20面体群に対応しています.一方,1/a+1/b+1/c<1の場合は無限個あり,双曲幾何学における市松模様三角形タイル張りの可能性は無限にあることになります.

 

 すなわち,楕円的平面では基本領域は有限個しかなく,有限個の基本領域をならべることによって全平面を埋めつくすことができます.一方,双曲的平面の場合には,無限に多くの種類の基本領域があり,全平面を隙間なく埋めるには無限個必要となります.ユークリッド平面はその中間で,基本領域は有限種類しかないが,全平面を埋めつくすには無限個必要であるというわけです.

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