■非ユークリッド幾何(その1)
【1】平行線の公理
ユークリッド自身を含め,人々はギリシャ時代からユークリッド幾何の第5公理,すなわち,「直線lと直線外の点Pがあるとき,点Pを通り直線lと交わらない直線はただ一つしかない」をそれ以外の公理を用いて証明しようしました.この公理は複雑で定理のように見えたため,古来,多くの学者がこれを定理として証明しようと試みたのですが,大変困難でその試みはついに成功しませんでした.平行線に溺れると身の破滅になるという戒めさえあったほどです.
ところが,19世紀にいたって,この公理を別の公理に置き換えて幾何学が成り立つことが証明されました.非ユークリッド幾何学の誕生です.「平行線は無数に引ける」を公理として作られた新しい幾何学がガウス,ボヤイ,ロバチェフスキーによる双曲幾何学であり,「平行線は一本も引けない」を公理として作られたのが楕円幾何学です.いずれも常識では納得できない内容の異端幾何学とみなされましたが,それでもまだ平行線公理が他の公理から導けないことが証明されたわけではありませんでした.
しかし,これもついに1870年,クラインが非ユークリッド幾何学を使って証明し,ギリシャ以来の大問題についに解答が与えられることになったのです.その不可能性の証明はユークリッド幾何学の世界において非ユークリッド幾何学のモデルを作ることが出来るというところにあり,それが存在しうる以上,ユークリッド幾何学を打ち壊すことなくして,非ユークリッド幾何学を打ち壊すことが出来ないという趣向です.
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