■位相幾何(その1)

Mathematical Intelligencer誌の読者が選んだ美しい数学の10大定理の一番目と二番目には「オイラー」がランクされています.一番目は数学で最も基本的な数とされるe,i,π,0,1がひとつの式の中に美しく現れている眼のくらむようなオイラーの関係式:

  e^iπ+1=0

です.eの虚数乗とはこれいかにと驚かされますが, スターが一堂に会したこれ以上の豪華な顔合わせは望むべくもありません.

二番目は,3次元凸多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,

v−e+f=2  (オイラーの多面体定理)

が成り立つというものです.たとえば,正八面体ではf=8,v=6,e=12.切頂20面体ではf=32(正五角形12枚,正六角形20枚),v=60,e=90でオイラーの公式が成り立っていますが,正多面体に限らず任意の凸多面体について常に成立する公式です.オイラーは晩年の17年間はまったくの盲目でしたが,それにもかかわらず非常に多くの定理,公式を発見していて,量(v−e+f)はオイラー数と呼ばれます.

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【1】位相不変量

位相幾何学(トポロジー)とは形には関係しないで,接触・分離にだけ関係する不変な図形の性質(位相不変量)を研究する学問です.そして,曲面を曲げたり伸ばしたりの連続変形を施しても変わらないtopological invariant の代表的な例がオイラーの多面体公式:v−e+f=2です.これは3次元立体について,0次元の特性数であるv,1次元の特性数であるe,2次元の特性数であるfの関係を述べたものと解釈されます.

オイラー数は幾何学において重要な概念である位相不変量の草分けであり,オイラーの多面体定理を利用すると,

  1)どの面も同数の辺で囲まれている.

  2)どの頂点にも同数の辺が集まっている.

という仮定をするだけで,正多角形であるという仮定をまったくせずとも正多面体は5種類しかないことを証明することができます.

 これが実に役立つ公式で,たとえばオイラーの多面体定理で示される制限から,正多面体は5種類しかないとか,すべての面が六角形であるような多面体は存在しないという結論,単一の凸n角形で平面を敷き詰めるものはn≧7では存在しないこと,2次元以上ですべての頂点の次数が6以上となることは不可能であり,必ず次数が5以下の頂点をもつこと,また,3次元では面数の平均は≦14であることなどが導き出されます.

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