■射影幾何(その7)

約2000年に及ぶユークリッド幾何学(放物線幾何学)の時代を経て,17世紀以降,ボヤイ・ロバチェフスキー幾何学(双曲線幾何学),リーマン幾何学(楕円幾何学),射影幾何学,位相幾何学などいろいろな考えに基づく種々の幾何学が続々と誕生しました.このような細分化の一方で,近年,(古典)幾何学の果たす役割は小さくなってきているといわれていますが,幾何学についてもう一度見直してみることは意味のあることでしょう.

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算額とは,神社や仏閣に吊るされる主として幾何学的な問題の描かれた木札である.17世紀から19世紀までに何千という数の算額が奉納された.証明や解答を木札に書いて社に吊るすことは奉納だけでなく,成果を宣伝する意味もあった.今日でいえば学会発表や論文投稿に相当するものだろう.

数学の問題を神社仏閣に奉納した「算額」には円や球,三角形に関係した幾何の問題が多くあるが,これらはきれいに彩色され,日本人は算額の中に造形に対する鋭い感覚を生み出していたと考えられる.すなわち,「算額」は数学と芸術が一体化したものと考えられるから,数学的な出版物というよりは芸術的な文化遺産である.

ここでとりあげる和算の問題は大きな円のなかに複数の円を内接させ,それぞれの直径を求める定型的な問題である.算額の美しさを鑑賞してみることにしよう.

[問]外円の直径が6寸,甲円の直径が2寸のとき,乙円・丙円・丁円の直径を求めよ   (1830年,一関の和算家・千葉秀胤編集「算法新書」の問題を改題)

和算には○△□が頻繁に登場するが,紋様(家紋)のデザインと関係していると思われる.たとえば,七曜星・九曜星では同心の外接円と内接円の間に,それぞれ7個,9個の円が配置されている.一般にn個の円が配置されるとき,外接円の半径:R,内接円の半径:rとすると

R(1-sin(π/n)) =r(1+sin(π/n))

が成り立つ.しかし,和算家たちは非同心円の場合のより高度な問題を取り扱っているわけである.とくに,安島直円(1784)は,シュタイナーの定理(1826)以前に同様の結論を知っていたことになる

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