■複素数(その2)

【2】ガウス

 18世紀末になって,ガウスは数学に本格的に複素数を導入し「実数あるいは複素数を係数にもつ代数方程式f(x)=a0 xn +a1 xn-1 +・・・+an =0は複素数の範囲に解をもつ」,「n次方程式は複素数の範囲にn個の解をもつ」という代数学の基本定理(fundamental theorem of algebra)を証明しました(1799年).

 代数学の基本定理は任意の実数係数をもつ多項式は1次および2次の実数多項式の積である,あるいは任意の複素係数多項式は1次の複素数多項式に分解されうることを述べています.

f(x)=a0 xn +a1 xn-1 +・・・+an

=(x−α1)(x−α2)・・・(x−αn)=0

多くの数学者は基本定理を証明なしに信じてきたのですが,ガウスはこの定理を非常に重要と考えたので,生涯に4つの異なる証明を与えています(最後の証明は1848年になされた).以下では,複素数係数のn次方程式の複素数解が複素平面上で作るn角形の性質に関する「ガウスの定理」を紹介します.

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 複素数係数の2次方程式f(z)=0の複素数解をα1とα2,1次方程式f’(z)=0の解をβとする.このとき,線分α1α2の中点が点βとなる.(あとのためには,点βが線分α1α2の中点であるというよりも,点βが線分α1α2の重心であるといったほうがよい.)

 複素数係数の3次方程式f(z)=0の複素数解をα1,α2,α3,2次方程式f’(z)=0の解をβ1,β2とする.このとき,線分β1β2は三角形α1α2α3に含まれる.1次方程式f”(z)=0の解をγとするとき,線分β1β2の中点が点γとなる.

 一般に,n次方程式f(z)=0の複素数解をα1,α2,・・・,αnと書くことにすると,n−1次方程式f’(z)=0の解β1,β2,・・・,βn-1はn角形[α1,α2,・・・,αn]に,n−2次方程式f”(z)=0の解γ1,γ2,・・・,γn-2はn−1角形[β1,β2,・・・,βn-1]に含まれる.・・・.1次方程式f^(n-1)(z)=0の解ωはn角形[α1,α2,・・・,αn]の重心となる.

 

「代数学の基本定理」の解の位置関係については,このようなことまで成り立ってしまうのです.さらに,もっと面白い定理

  『2点β1,β2は三角形α1α2α3の3辺の中点でこれらの辺に接する楕円の焦点になる.』(ファンデンバーグ・ジーベックの定理)

も成り立ちます.

数を実数から複素数に広げると大小の順序はまずくなりますが,平方根を常にとれるし,だから2次方程式は必ず解けるし,もっと一般に代数方程式は常に根をもつことになり,現象がずっと単純になって見通しがよくなります.その意味で複素数は究極の数です.交流理論や相対論など物理学の進展の多くは複素数なしには成し遂げられなかったでしょう.

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