■数の幾何学
かつて常磐線からはお化け煙突がみえた.お化け煙突は,見る角度によって2本にも3本にも4本にも見えるという不思議な煙突であった.旧千住の発電所には,細長い菱形状に並んでいる4本の煙突があり,見る方向によって3本,2本,さらに重なって1本に見えるというのが「お化け煙突」で正体あった.ところで,・・・
[Q]直径が26の円形の森があり,原点以外のすべての正方格子点に直径0.16の木が生えている.このとき,原点に立っている人にはこの森の外側が見えるだろうか?
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【1】ラグランジュの定理(4平方和定理)の言い替え
4n+3の形の素数は2個の平方数の和で表せませんが,同様にして,8n+7の形の素数は3個の平方数の和では表せません.しかし,すべての正の整数Nは高々4個の整数の平方和で表されるというのが,ラグランジュの定理(4平方和定理)です.
幾何学的に考えると,ラグランジュの定理は4次元空間内の原点を中心とする半径√Nの4次元超球面には必ず格子点があることを主張しているわけです.
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【2】ミンコフスキーの数の幾何学(格子点定理)
ミンコフスキーはアインシュタインの先生として有名で,相対論における基本概念はミンコフスキーにその起源をたどることができます.時空4次元世界による特殊相対論の表現は,アインシュタイン自身によるというよりも,彼のETH時代の恩師にあたるミンコフスキーの業績というべきでしょう.
彼は数論家として出発しましたが,研究を進めるにしたがって次第に幾何学に興味を惹かれるようになり,幾何学的方法を用いて数論を研究する「数の幾何学」と呼ばれる新しい数学分野を打ち立てました.格子点定理が数の幾何学の基礎となっているのですが,格子点定理は次のように述べることができます.
「平面(n次元空間)上の任意の単位格子において,1つの格子点を中心として1辺の長さが2の正方形(面積4の平行四辺形,面積2^nの中心対称な凸体)を任意の向きにおいてみると,内部あるいは境界上にもうひとつの格子点が必ず存在する.」
N=4のとき√N=2ですから,4次元超球を使って,ミンコフスキーの定理からラグランジュの定理が成り立つことがいえるのです.
この定理は非常に単純であるにもかかわらず,他の方法では解決することのできなかった数論における多くの問題を解明したのですが,格子点定理を用いると,初等的な定理,たとえば,
「4k+1の形の素数はx^2^+y^2の形に書ける」
「6k+1の形の素数はx^2^+3y^2の形に書ける」
「8k+1の形の素数はx^2^+2y^2の形に書ける」
なども証明することができます.2次形式の理論が発展していく段階では,ミンコフスキーが非常に大きな貢献をしていて,格子点の幾何学はミンコフスキーの「数の幾何学」に端を発するのです.
また,冒頭の「規則正しい森の問題」ではミンコフスキーの定理を使って,原点に立っている人がこの森の外を見ようとしても見えないことが証明されます.
(証明) 見えると仮定すると,幅0.16の帯が原点以外の格子点を含まないということになるが,面積は0.16・26=4.16>4であるから,ミンコフスキーの定理に矛盾することになる.
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【3】ピックの公式
ミンコフスキーの格子点定理を用いて,ピックは彼の興味深い定理を証明しました.ピックの公式(1899年)とは,任意の格子多角形の面積が以下の式で表されるというものです.
A=I+B/2−1
A:格子多角形の面積
I:内部の点の個数
B:境界線上の点の個数
すなわち,格子点平面の折れ線で囲まれた面積は(凸であれ凹であれ)格子点の数で表せるという「格子の幾何学」の美しい公式です.
ところで,ピックの定理を一般化して,3次元格子上に頂点をもつ多面体の体積公式を作ることができるでしょうか? 実は,3次元の任意の格子多面体に対しては内部や境界面上の点の個数から体積を求める式はないことが証明されています.(リーブ,1957).
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