■ガウスの整数環(その1)
自然数は素数が集まってできていますから数学において素数は重要な存在です.10=2・5=5・2のように,整数の素因数分解は順序の違いを除けば1通りしかないというのが「算術の基本定理」ですが,たとえば,扱う数の範囲を整数から整数環
Z(√−5)={a+b√−5|a,bは整数}
にまで拡げると,
6=2・3=(1+√−5)(1−√−5)
21=3・7=(4+√−5)(4−√−5)
ここで,2,3,7は素数ですし,
1+√−5,1−√−5,4+√−5,4−√−5
はいずれも
a+b√−5
のなかには±1と±それ自身以外の約数をもたないので「素数」です.
このように,もうこれ以上分解できないはずの素因数分解の仕方が2通り存在してしまう現象が起こります.物質は原子が集まってできているから物理学において原子は重要です.物質の世界において原子が分裂することは一大事ですが,数の世界においても素因数分解の一意性が成り立たず,素数が分裂することは一大事なのです.
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【1】素因数分解の一意性とベイカー・スタークの定理
それでは,どういう負の数−dを使った整数環Z(√−d)で,素因数分解は一意となるのでしょうか? この答えは既に知られていて,次の9つの虚2次体の部分集合となる整数環Z(√−d)
d=1,2,3,7,11,19,43,67,163
に限られるというものです.
ただし,最初の2つ以外ではーd=1(mod4)なので,半整数a,bを使って,a+b√−dを作る必要があります.
{a+b√−d|Z,Z+1/2}
実は,複素整数に限らず,四元整数,八元整数でも成分がすべて整数だけでは不十分で,適当に半整数(整数+1/2)も含める必要があります. {a+bi+cj+dk|Z,Z+1/2}
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